思った。学生のようでもあり、労働者のようでもある。その実、いつもキチンと背広にネクタイを結んでいる。
 母親は何故かその青年を虫が好かなかった。その男がやってくる度に、娘を少しずつ自分の手からむしり[#「むしり」に傍点]とってでも行くような気がした。
「ああいう人とは、あんまり近しくしない方が、よかあないか。」
 母親がそんなことでもいうと、みを子は険しい眼つきをして母親を見た。

 母親は、みを子が会社を馘にされたのを、何か非常に不名誉なことででもあるように思って、そのことは、みを子の兄にも秘していた。すると、ある日の新聞は、『全協の魔の手伸びる』とか、『赤い女事務員』とか、そういう標題の下に、彼女達の組織しようとしていた、使用人組合の分会準備会がばれたことを、デカデカと書いていた。それですっかり、みを子の馘になった理由が、兄にも知れてしまった。
 長い間木版工をして、現在は印刷局に勤めているみを子の兄は、その晩殊に機嫌が悪かった。――肺を患っていて、自分の馘も危ぶないのに、この上妹のことでも影響して失業でもしたら、これからどうして食べて行く!
 妹がひどく身勝手なことでもやったよう
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