の画家のうちは、青葉の中に埋没されて毛虫やナメクジが密集していることだろう。画家は絵が描けないと悲観しているそうだ。あの驢馬のような絵描きは、昔のようにノンキにノンキな画を描くことは出来なくなってしまったらしい。何か特別な「美」をデッチ上げることにサンタンたる苦心ばかりしているが、元来そんな「特別な美」なんてものはありえないから、其処に表現されているものは、唯重苦しい苛々《いらいら》した気持ちだけなのだ。あれでは絵も描けなくなる筈だ。処で僕が一番初めに君にすすめた本を、君は読んでしまったかね。あの本は非常にいい本だから是非一生懸命に読めよ。    完

 此処では男の人の手紙ばかりで、残念ながら女の人のがない。然しながらこの手紙を読んでゆけば、その前に女の人がどんな手紙を出したかは、ほぼ推察されることだろう。と同時に、女の人――山内ゆう子――の境遇が転々と変化して行くことも想像されるだろうが、実際また彼女はあらゆる苦難と戦いながら、勇敢に勤労婦人の生活の中へ飛び込んで行った。ある時はタイピストにある時はバス車掌に、――それは止むをえない事情で職場を変えたのだった。
 だが、今ではもう完
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