瘤とり
楠山正雄

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)ある所《ところ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一|面《めん》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)しち[#「しち」に傍点]
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     一

 むかし、むかし、ある所《ところ》に、一人《ひとり》のおじいさんがありました。右《みぎ》のほおにぶらぶら大きな瘤《こぶ》をぶら下《さ》げて、始終《しじゅう》じゃまそうにしていました。
 ある日、おじいさんは山へ木を切《き》りに行きました。にわかにひどい大あらしになって、稲光《いなびかり》がぴかぴか光《ひか》って、ごろごろ雷《かみなり》が鳴《な》り出《だ》しました。そのうち雨《あめ》がざあざあ降《ふ》ってきて、うちへ帰《かえ》るにも帰《かえ》れなくなりました。どうしようかと思《おも》って見回《みまわ》しますと、そこに大きな木のうろを見《み》つけました。しかたがありませんから、その中に入《はい》って、雨《あめ》の小《こ》やみになるのを待《ま》っているうちに、いつか日《ひ》はとっぷりくれてしまいました。
 深《ふか》い山の中には、もうきこりの木を切《き》る音《おと》もしません。木のうろの外《そと》は、一|面《めん》真《ま》っ暗《くら》やみの中に、すさまじいあらしが、うなり声《ごえ》を立《た》てて通《とお》っていくだけです。
 おじいさんはこわくって、こわくって、たまらないので、夜通《よどお》し目《め》も合《あ》わずに、うろの中に小《ちい》さくなっておりました。
 夜中《よなか》になって、雨《あめ》がだんだん小降《こぶ》りになり、やがてあらしがぱったりやみますと、はるか高《たか》い山の上から、なんだか大《おお》ぜいがやがや騒《さわ》ぎながら、下《お》りてくる声《こえ》がしました。
 おじいさんは今《いま》まで一人《ひとり》ぼっちで、寂《さび》しくってたまらなかったところですから、声《こえ》を聞《き》くとやっと生《い》き返《かえ》ったような気《き》がしました。
「やれやれ、お連《つ》れが出来《でき》て有《あ》り難《がた》い。」
 といいながら、そっとうろの中から顔《かお》を出《だ》してのぞいてみますと、まあどうでしょう、それは人ではなくって、ふしぎな化《ば》け物《もの》が、何《なん》十|人《にん》とな
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