ぞう》は布団《ふとん》の中から、虫《むし》の鳴《な》くような声《こえ》を出《だ》して、
「和尚《おしょう》さん、ごめん下《くだ》さい。わたしは死《し》にます。もうとても助《たす》かりません。死《し》んだあとは、かわいそうだと思《おも》って、お経《きょう》の一つも読《よ》んで下《くだ》さい。」
 といいました。
 和尚《おしょう》さんは、だしぬけに妙《みょう》なことをいわれて、びっくりしました。
「小僧《こぞう》、小僧《こぞう》、いったいどうしたのだ。」
「きょう、和尚《おしょう》さんのたいじなお湯飲《ゆの》みを洗《あら》っていますと、いきなり猫《ねこ》がじゃれかかって来《き》て、そのひょうしに手《て》をすべらして、お湯飲《ゆの》みを落《お》としてこわしてしまいました。もうこれは死《し》んで申《もう》しわけをするよりほかはないと思《おも》って、つぼの中の毒薬《どくやく》を出《だ》して、残《のこ》らず食《た》べました。もう毒《どく》が体中《からだじゅう》に回《まわ》って、間《ま》もなく死《し》ぬでしょう。どうかかんにんして、お経《きょう》だけ読《よ》んでやって下《くだ》さい。ああ、苦《くる
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