してしまえば、どうせけちんぼで欲《よく》ばりの和尚《おしょう》さんのことだから、みんな自分《じぶん》で食《た》べてしまって、一つもくれないにきまっている。よしよし、ちょうどいい、ねむけざましに食《た》べてやれ。」
 と、こう独《ひと》り言《ごと》をいいながら、ふろしき包《づつ》みをほどくと、大きなお重箱《じゅうばこ》にいっぱい、おいしそうなお団子《だんご》がつまっていました。小僧《こぞう》はにこにこしながら、お団子《だんご》をほおばって、もう一つ、もう一つと、食《た》べるうちに、とうとうお重箱《じゅうばこ》にいっぱいのお団子《だんご》を、きれいに食《た》べてしまいました。食《た》べてしまって、小僧《こぞう》ははじめて気《き》がついたように、
「ああ、しまった。和尚《おしょう》さんが帰《かえ》って来《き》たらどうしよう。」
 と、困《こま》ってべそをかきました。するうち、ふと何《なに》か思《おも》いついたとみえて、いきなりお重箱《じゅうばこ》をかかえて、本堂《ほんどう》へ駆《か》け出《だ》して行きました。そして御本尊《ごほんぞん》の阿弥陀《あみだ》さまのお口のまわりに、重箱《じゅうばこ》のふちにたまったあんこを、指《ゆび》でかきよせては、こてこてとぬりつけました。そして重箱《じゅうばこ》を阿弥陀《あみだ》さまの前《まえ》に置《お》いて、部屋《へや》に帰《かえ》って来《き》て、知《し》らん顔《かお》をしてお経《きょう》を読《よ》んでいました。
 しばらくすると、和尚《おしょう》さんは帰《かえ》って来《き》て、小僧《こぞう》に、
「留守《るす》にだれも来《こ》なかったか。」
 とたずねました。
「お隣《となり》のおばあさんが、お重箱《じゅうばこ》を持《も》って来《き》ました。おひがんだから和尚《おしょう》さんに上《あ》げて下《くだ》さいといいました。」
 と、小僧《こぞう》は答《こた》えました。
「その重箱《じゅうばこ》はどこにある。」
「本堂《ほんどう》の御本尊《ごほんぞん》さまの前《まえ》に上《あ》げて置《お》きました。」
「うん、それはなかなか気《き》が利《き》いている。どれ、どれ。」
 といいながら、和尚《おしょう》さんは本堂《ほんどう》へ行ってみますと、なるほど重箱《じゅうばこ》がうやうやしく、御本尊《ごほんぞん》の前《まえ》に上《あ》がっていましたが、あけてみ
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