ぞう》は布団《ふとん》の中から、虫《むし》の鳴《な》くような声《こえ》を出《だ》して、
「和尚《おしょう》さん、ごめん下《くだ》さい。わたしは死《し》にます。もうとても助《たす》かりません。死《し》んだあとは、かわいそうだと思《おも》って、お経《きょう》の一つも読《よ》んで下《くだ》さい。」
 といいました。
 和尚《おしょう》さんは、だしぬけに妙《みょう》なことをいわれて、びっくりしました。
「小僧《こぞう》、小僧《こぞう》、いったいどうしたのだ。」
「きょう、和尚《おしょう》さんのたいじなお湯飲《ゆの》みを洗《あら》っていますと、いきなり猫《ねこ》がじゃれかかって来《き》て、そのひょうしに手《て》をすべらして、お湯飲《ゆの》みを落《お》としてこわしてしまいました。もうこれは死《し》んで申《もう》しわけをするよりほかはないと思《おも》って、つぼの中の毒薬《どくやく》を出《だ》して、残《のこ》らず食《た》べました。もう毒《どく》が体中《からだじゅう》に回《まわ》って、間《ま》もなく死《し》ぬでしょう。どうかかんにんして、お経《きょう》だけ読《よ》んでやって下《くだ》さい。ああ、苦《くる》しい、ああ、苦《くる》しい。」
 といいながら、おいおい、おいおい、泣《な》きました。

     二

 ある日、和尚《おしょう》さんは、御法事《ごほうじ》に呼《よ》ばれて行って、小僧《こぞう》が一人《ひとり》でお留守番《るすばん》をしていました。お経《きょう》を読《よ》みながら、うとうと居眠《いねむ》りをしていますと、玄関《げんかん》で、
「ごめん下《くだ》さい。」
 と人の呼《よ》ぶ声《こえ》がしました。小僧《こぞう》があわてて、目をこすりこすり、行ってみますと、お隣《となり》のおばあさんが、大きなふろしき包《づつ》みを持《も》って来《き》て、
「おひがんでございますから、どうぞこれを和尚《おしょう》さんに上《あ》げて下《くだ》さい。」
 といって、置《お》いて行きました。小僧《こぞう》はふろしき包《づつ》みを持《も》ち上《あ》げてみますと、中から温《あたた》かそうな湯気《ゆげ》が立《た》って、ぷんとおいしそうな匂《にお》いがしました。小僧《こぞう》は、
「ははあ、おひがんでお団子《だんご》をこしらえて持《も》って来《き》たのだな。これを和尚《おしょう》さんにこのまま渡《わた》
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