人を入れた棺《かん》が、ふたをあけたまま置いてありました。まだお葬式がすんでいなかったのです。ヨハンネスは正しい心の子でしたから、ちっとも死人をこわいとはおもいません。それに死人がなにもわるいことをするはずのないことはよくわかっていました。生きているわるいひとたちこそよくないことをするのです。ところへ、ちょうど、そういう生きているわるい人間のなかまがふたり、死人のすぐわきに来て立ちました。この死人はまだ埋葬《まいそう》がすまないので、お寺にあずけておいてあったのです。それをそっと棺のなかに休ませておこうとはしずに、お寺のそとへほうりだしてやろうという、よくないたくらみをしに来たのです。死んだ人を、きのどくなことですよ。
「なんだって、そんなことをするのです。」と、ヨハンネスは声をかけました。「ひどい、わるいことです。エスさまのお名にかけて、どうぞそっとしてあげておいてください。」
「くそ、よけいなことをいうない。」と、そのふたりの男はこわい顔をしました。「こいつはおれたちをいっぱいはめたんだ。おれたちから金《かね》を借りて、かえさないまま、こんどはおまけにおッ死んでしまやがったんだ。お
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