。きりょうがすばらしくよくて、世にはこんなにもしとやかな人があるものかとおもうほどですが、それがなんになるでしょう、このお姫さまがいけない魔法つかいで、もうそのおかげで、なんどとなくりっぱな王子が、いのちをなくしました。――それはたれでもお姫さまに結婚を申しこむおゆるしが出ていて、それは王子であろうとこじきであろうと、たれでもかまわない、というのですが、そのかわり、お姫さまのおもっている三つのことをたずねられたら、それをそっくりあてなければならないのです。そのかわり、あたればお姫さまをおよめにして、おとうさまの王さまのおかくれになったあとでは、[#「、」は底本では「。」]けっこうこの国の王さまにもなれる。けれどもその三つともあたらなければ、首をしめられるか、切られるかしなければなりません。このうつくしいお姫さまが、こんなにもひどい、わるものなのでした。おとうさまの老王さまも、そのことでは、ずいぶんつらがっておいでなのですが、そんなむごたらしいことをするなととめるわけにいかないというのは、いつかお姫さまのむこえらみについては、けっして口だししないといいだされたため、お姫さまはなんでもじぶんのしたいままにしてよいことになっているからです。それで、あとから、あとから、ほうぼうの国の王子が代る代るやつて来て、なぞをときそこなっては、首をしめられたり、切られたりしました。そのくせ、まえもっていいきかされていることですから、なにも申込をしなければいいのですが、やはりお姫さまをおよめにたれもしたがりました。お年よりの王さまは、かさねがさねこういうかなしい不幸なことのおこるのを、心ぐるしくおもって、年に一日、日をきめて、のこらずの兵隊をあつめて、ともども神さまのまえにひれ伏して、どうか王女が善心にかえるようにとせつないおいのり[#「おいのり」は底本では「おのり」]をなさるのですが、をなさるのですが、お姫さまはどうしてもそれをあらためようとはしないのです。この町で年よりの女たちが、ブランデイをのむにも、黒くしてのむのは、それほどかなしがっている心のしょうこをみせるつもりでしょう。まあ、そんなことよりほかにしょうがないのですよ。
「いやな王女だなあ。」と、ヨハンネスはいいました。「そんなのこそ、ほんとうにむちでもくらわしたら、ちっとはよくなるかもしれない。わたしがそのお年よりの王さまだったら、とうにひどくこらしめてやるところなのに。」
そのとき、そとで、町の人たちが、万歳万歳とさけぶ声がしました。ちようど王女のお通りなのです。なるほど、王女はじつに目のさめるようなうつくしさで、このお姫さまがわるい人間だということをわすれさせるほどでしたから、ついたれも万歳をさけばずにはいられなかったのです。十二人のきれいな少女がおそろいの白絹の服で、手に手に金のチューリップをささげてもち、まっ黒な馬にのって、両わきにしたがいました。王女ご自身は、雪とみまがうような白馬《はくば》に、ダイヤモンドとルビイのかざりをつけてのっていました。お召の乗馬服は、純金の糸を織ったものでした、手にもったむちは、お日さまの光のようにきらきらしました。あたまにのせた金のかんむりは、大空のちいさな星をちりばめたようですし、そのマントはなん千とないちょちょう[#「ちょちょう」に傍点]のはねをあつめて、縫いあわせたものでした。そのくせ、そんなにしてかざり立てたのこらずの衣裳《いしょう》も、王女みずからのうつくしさにはおよびませんでした。
ヨハンネスは、王女をみたせつな、顔いちめんかっと赤くほてって、ただひとしずくの血のしたたりのようになりました。もうひと言もものがいえなくなりました。まあ、この王女は、おとうさんのなくなった晩、ヨハンネスが夢でみた、あの金のかんむりのうつくしいむすめにそっくりなのです。あんまりうつくしいので、いやおうなしに、いきなり大好きにさせられてしまいました。この人が、じぶんのかけたなぞが、そのとおりにとけないといって、ひとの首をしめたり、きらせたりするわるい魔法つかいの女だなんて、そんなはずがあるものか。「たれでも、それは、この上ないみじめなこじきでも、お姫さまに結婚を申し込むことはかまわないということだ。よし、ぼくもお城へでかけよう。
「どうしたっていかずにはいられないもの。」
ところでみんなは、口をそろえて、そんなまねはしないがいい、ほかのものと同様、うきめをみるにきまっているといいました。
旅なかまも、やはり、おもいとまるようにいいきかせました。でも、ヨハンネスは、大じょうぶ、うまくやってみせますといって、くつと上着のちりをはらって、顔と手足をあらって、みごとな金髪《きんぱつ》にくしを入れました。それからひとりで町へでていって、お城の門まで来ました。
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