まも、ヨハンネスもそこへいってあいさつしました。お姫さまはそれこそあでやかに、ヨハンネスに手をさし出しました。それで、よけい好きになりました。世間の人たちがうわさするように、このひとがそんなわるい魔法つかいの女なぞであるわけがありません。それから、みんなそろって広間へあがると、かわいいお小姓《こしょう》たちが、くだもののお砂糖漬だの、くるみのこしょう入りのお菓子だのをだしました。でも、王さまはかなしくて、なんにもお口に入れるどころではなく、それに、くるみのこしょう入お菓子はかたくて、お年よりには歯が立ちませんでした。
 さて、ヨハンネスは、そのあくる日、またあらためてお城へくることになりました。そこに審判官《しんぱんかん》と評定官《ひょうじょうかん》のこらずがあつまって、問答《もんどう》をきくことになっていました。はじめの日うまく通れば、そのあくる日また来られます。でも、これまでは、もう最初の日からうまくいったためしがないのです。そうなれば、いやでもいのちひとつふいにしなくてはなりません。
 ヨハンネスは、いったいどうなるかなんのという心配はしません。ただもううきうきと、うつくしいお姫さまのことばかりかんがえていました。そうしておめぐみぶかい神さまが、きっとたすけてくださるとかたく信じていました。ではどういうふうにといっても、それはわかりません。そんなことはかんがえないほうがいいとおもっていました。そこで、宿へかえる道道も、往来をおどりおどりくると、旅なかまが待ちかまえていました。
 ヨハンネスは、王女がやさしくもてなしてくれたこと、いかにもうつくしいひとだということ、それからそれととめどなく話しました。あしたはいよいよお城へでかけて、みごとになぞをいいあてて、運だめしをするのだといって、もうそればかり待ちこがれていました。
 けれども、旅なかまは、かぶりをふって、うかない顔をしていました。
「わたしは、とてもきみを好いているのだ。」と、旅なかまはいいました。「だから、おたがいこれからもながくいっしょにいたいとおもうのに、これなりおわかれにならなくてはならない。ヨハンネス、きみはきのどくなひとだよ。わたしは泣きたくてならないが、こうしているのも今夜かぎりだろうから、せっかくのきみのたのしみをさまたげるでもない。愉快にしていようよ。大いに愉快にね。泣くことなら、あす、
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