した。
 森のなかをあるきながらみまわすと、月あかりが木立をすけてちらちらしているなかに、かわいらしい妖女《ようじょ》たちのおもしろそうにあそんでいるのが目にはいりました。妖女たちはへいきでいました。それは、いま方はいって来たヨハンネスが、やさしい、いい人間だということをよく知っているからでした。わるい人間だけには、妖女のすがたがみたくとも見えないのです。まあ、かわいらしいといって、ほんとうに、指だけのせいもない妖女もいましたが、それぞれながい金いろの髪の毛を、金のくしですいていました。ふたりずつ組になって、木の葉や、たかい草の上にむすんだ大きな露の玉の上でぎったんばったんしていました。ときどきこの露の玉がころがりだすと、のっているふたりもいっしょにころげて、ながい草のじくのあいだでとまります。すると、ほかのちいさいなかまに、わらい声とときの声がおこりました。それはずいぶんおもしろいことでした、そのうち、みんな歌をうたいだしましたが、きいているうち、ヨハンネスは、こどものじぶんおぼえた歌を、はっきりおもいだしました。銀のかんむりをあたまにのせた大きなまだらぐもが、こちらの垣からむこうの垣へ、ながいつり橋や御殿を網で張りわたすことになりました。さて、そのうえにきれいな露がおちると、あかるいお月さまの光のなかでガラスのようにきらきらしました。こんなことがそれからそれとつづいているうち、お日さまがおのぼりになりました。すると、妖女たちは、花のつぼみのなかにはい込みました。朝の風が、つり橋やお城をつかむと、それなり大きなくもの網になって、空の上にとびました。
 さて、ヨハンネスがいよいよ森を出ぬけようとしたとき、しっかりした男の声で、うしろからよびとめるものがありました。
「もしもし、ご同行《どうぎょう》、どこまで旅をしなさる。」
「あてもなくひろい世間へ。」と、ヨハンネスはいいました。「父親もなし、母親もなし、たよりのないわかものです。でも神さまは、きっと守ってくださるでしょう。」
「わたしも、あてもなく世間へでていくところだ。」と、その知らないひとはいいました。「ひとつ、ふたりでなかまになりましょうか。」
「ええ、そうしましょう。」と、ヨハンネスもいいました。そこで、ふたりは、いっしょに出かけました。じき、ふたりは仲よしになりました。なぜといって、ふたりともいい人たちだ
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