いいました。和尚《おしょう》さんは大《たい》そうよろこんで、出《だ》してやりました。するとその晩《ばん》子供《こども》が、一人《ひとり》鐘撞堂《かねつきどう》に上《あ》がって鐘《かね》をつこうとしますと、どこからか鬼《おに》が出て来《き》て、うしろから頭《あたま》をつかまえました。子供《こども》は、
「うるさい、何《なに》をするのだ。」
といったまま、かまわず撞木《しゅもく》に手をかけますと、その手をまた鬼《おに》がつかみました。子供《こども》はおこって、あべこべに鬼《おに》の頭《あたま》をつかみました。そしていきなり鬼《おに》の首《くび》を引《ひ》き抜《ぬ》こうとしました。鬼《おに》はびっくりして、「これは驚《おどろ》いた、とんでもないやつが出てきた。」と思《おも》って、逃《に》げ出《だ》そうとしました。けれど子供《こども》はしっかり鬼《おに》の頭《あたま》をつかまえていて放《はな》しません。鬼《おに》は苦《くる》しまぎれに子供《こども》の髪《かみ》の毛《け》をつかんで、負《ま》けずにこれも首《くび》を引《ひ》き抜《ぬ》こうと骨《ほね》を折《お》りました。どちらも負《ま》けず劣《おと》らぬえらい力《ちから》でしたから、えいやえいや、両方《りょうほう》で頭《あたま》の引《ひ》っ張《ぱ》りこをしているうちに、夜《よ》が明《あ》けかかって、鶏《にわとり》が鳴《な》きました。すると、鬼《おに》はびっくりして、あわてて頭《あたま》の皮《かわ》をそっくり子供《こども》の手《て》に残《のこ》したまま、にげて行ってしまいました。
夜《よ》がすっかり明《あ》けはなれると、みんなが心配《しんぱい》して見《み》に来《き》ました。そして子供《こども》がとくいらしく、髪《かみ》の毛《け》のついた鬼《おに》の頭《あたま》の皮《かわ》を振《ふ》り回《まわ》すのを見《み》て、ますますびっくりしました。
鬼《おに》というのは、昔《むかし》このお寺《てら》で悪《わる》いことをして殺《ころ》された坊《ぼう》さんが、お墓《はか》の中から毎晩《まいばん》出て来《く》るのでした。しかしこのことがあってから、二|度《ど》と鬼《おに》の姿《すがた》を見《み》ることがなくなりました。そして鬼《おに》の残《のこ》して行った頭《あたま》の皮《かわ》は、元興寺《がんこうじ》の宝物《たからもの》として残《のこ》った
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