ものいみが明《あ》けるまでは、だれにも見《み》せることができないというわけを、ていねいにいって断《ことわ》りました。するとおばさんは悲《かな》しそうな顔《かお》をして、
「まあ、よくよく縁《えん》がないのだね。なにしろ年《とし》を取《と》って生《お》い先《さき》の短《みじか》い体《からだ》だからね。しかたがない、あきらめましょう。」
と、しおれ返《かえ》っていいました。
その様子《ようす》をみると、綱《つな》はまたどうしても鬼《おに》の腕《うで》を出《だ》して見《み》せなければならないような気《き》になって、
「ではせっかくだから、ちょっとお目にかけましょう。」
といって、箱《はこ》をおばさんの前《まえ》に持《も》ち出《だ》して、ふたをあけました。
「どれ、どれ。」
とおばさんはいって、つとそばによりました。そしてしばらくじっと箱《はこ》の中をのぞき込《こ》みながら、
「まあ、これが鬼《おに》の腕《うで》かい。」
といって、いきなり左《ひだり》の腕《うで》を伸《の》ばして、腕《うで》を取《と》りました。
綱《つな》がはっと思《おも》う間《ま》に、おばさんはみるみる鬼《おに》の姿《すがた》になって、空《そら》に飛《と》び上《あ》がりました。そして綱《つな》が刀《かたな》を取《と》って追《お》いかけるひまに、破風《はふ》をけ破《やぶ》って、はるかの雲《くも》の中に逃《に》げて行きました。
綱《つな》はくやしがって、いつまでも空《そら》をにらめつけていました。
でも鬼《おに》はそれなりもうふっつりと姿《すがた》を現《あらわ》しませんでした。都《みやこ》の中でも鬼《おに》のうわさはぱったり止《や》みました。
底本:「日本の英雄伝説」講談社学術文庫、講談社
1983(昭和58)年6月10日第1刷発行
※「家来は 気の毒そうに」の空白と、「おばあさん」「おばさん」の混用は底本のままです。
入力:鈴木厚司
校正:大久保ゆう
2003年9月29日作成
青空文庫作成ファイル:
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