ひ》き上《あ》げました。
引《ひ》き上《あ》げられながら綱《つな》はあわてず刀《かたな》を抜《ぬ》いて、横《よこ》なぐりに鬼《おに》の腕《うで》を切《き》りはらいました。その時《とき》くらやみの中で「ううん。」とうなる声《こえ》がしました。そのとたん綱《つな》はどさりと羅生門《らしょうもん》の屋根《やね》の上に落《お》とされました。
その時《とき》はるかな黒雲《くろくも》の中で、
「腕《うで》は七日《なのか》の間《あいだ》預《あず》けておくぞ。」
と鬼《おに》はいって、逃《に》げて行きました。
綱《つな》はそろそろ屋根《やね》をおりて、その時《とき》までもしっかり襟首《えりくび》をつかんでいた鬼《おに》の腕《うで》を引《ひ》きはなして、それを持《も》って、みんなのお酒《さけ》を飲《の》んでいる所《ところ》へ帰《かえ》って行きました。
帰《かえ》って来《く》ると、みんなは待《ま》ちかまえていて、綱《つな》をとりまきました。そして明《あ》かりの下へ集《あつ》まって鬼《おに》の腕《うで》をみました。腕《うで》は赤《あか》さびのした鉄《てつ》のように堅《かた》くって、銀《ぎん》のような毛《け》が一面《いちめん》にはえていました。
みんなは綱《つな》の武勇《ぶゆう》をほめて、また新《あたら》しくお酒《さけ》を飲《の》みはじめました。
二
「七日《なのか》の間《あいだ》腕《うで》を預《あず》けておくぞ。」
こういい残《のこ》した鬼《おに》の言葉《ことば》を綱《つな》は忘《わす》れずにいました。それで万一《まんいち》取《と》り返《かえ》されない用心《ようじん》に、綱《つな》は腕《うで》を丈夫《じょうぶ》な箱《はこ》の中に入《い》れて、門《もん》の外《そと》に、
「ものいみ」
と書《か》いて張《は》り出《だ》して、ぴったり門《もん》を閉《し》めて、お経《きょう》をよんでいました。
六日《むいか》の間《あいだ》は何事《なにごと》もありませんでした。七日《なのか》めの夕方《ゆうがた》にことことと門《もん》をたたくものがありました。綱《つな》の家来《けらい》が門《もん》のすきまからのぞいてみますと、白髪《しらが》のおばあさんが、杖《つえ》をついて、笠《かさ》をもって、門《もん》の外《そと》に立《た》っていました。家来《けらい》が、
「あなたはどなたです。」
と聞《き》きますと、おばあさんは、
「綱《つな》のおばが、摂津《せっつ》の国《くに》渡辺《わたなべ》からわざわざたずねて来《き》ました。」
といいました。
家来《けらい》は 気《き》の毒《どく》そうに、
「それはあいにくでございました。主人《しゅじん》はものいみでございまして、今晩《こんばん》一晩《ひとばん》立《た》つまでは、どなたにもお会《あ》いになりません。」
といいました。するとおばあさんは悲《かな》しそうな声《こえ》で、
「綱《つな》は小《ちい》さい時《とき》母《はは》に別《わか》れたので、母親《ははおや》の代《か》わりにわたしがあの子を育《そだ》ててやったのです。それが今《いま》はえらい侍《さむらい》になったといって、せっかく遠方《えんぽう》からたずねて来《き》ても会《あ》ってはくれない。このごろはめっきり年《とし》をとって、こんどまた会《あ》おうといっても、それまで生《い》きていられるかおぼつかない。ああ、ざんねんなことだ。」
といいながら、とぼとぼ帰《かえ》って行こうとしました。
綱《つな》は奥《おく》でおばさんのいうことをすっかり聞《き》いていました。聞《き》いているうちに気《き》の毒《どく》になって、どうしても門《もん》を開《あ》けてやらずにはいられないような気《き》がしました。それで自分《じぶん》が出て行って、門《もん》を開《あ》けてやって、
「よくいらっしゃいました。」
といって、奥《おく》へ通《とお》しました。
おばさんはうれしそうに入《はい》って来《き》て、久《ひさ》し振《ぶ》りのあいさつがすむと、
「さっき、ものいみで門《もん》をあけないといったが、あれはどういうわけなのだね。」
と聞《き》きました。
綱《つな》は鬼《おに》のことをくわしく話《はな》しました。おばさんはだんだんひざを乗《の》り出《だ》しながら聞《き》いていましたが、
「まあ、不思議《ふしぎ》なこともあるものだね。だがわたしの育《そだ》てた子がそんなえらい手柄《てがら》をしたかと思《おも》うと、わたしまでうれしいとおもうよ。ついでにその鬼《おに》の腕《うで》というのを見《み》たいものだね。」
といいました。
綱《つな》は気《き》の毒《どく》そうな顔《かお》をして、鬼《おに》のいい残《のこ》した言葉《ことば》があるので、今日《きょう》七日《なのか》の
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