ひ》き上《あ》げました。
 引《ひ》き上《あ》げられながら綱《つな》はあわてず刀《かたな》を抜《ぬ》いて、横《よこ》なぐりに鬼《おに》の腕《うで》を切《き》りはらいました。その時《とき》くらやみの中で「ううん。」とうなる声《こえ》がしました。そのとたん綱《つな》はどさりと羅生門《らしょうもん》の屋根《やね》の上に落《お》とされました。
 その時《とき》はるかな黒雲《くろくも》の中で、
「腕《うで》は七日《なのか》の間《あいだ》預《あず》けておくぞ。」
 と鬼《おに》はいって、逃《に》げて行きました。
 綱《つな》はそろそろ屋根《やね》をおりて、その時《とき》までもしっかり襟首《えりくび》をつかんでいた鬼《おに》の腕《うで》を引《ひ》きはなして、それを持《も》って、みんなのお酒《さけ》を飲《の》んでいる所《ところ》へ帰《かえ》って行きました。
 帰《かえ》って来《く》ると、みんなは待《ま》ちかまえていて、綱《つな》をとりまきました。そして明《あ》かりの下へ集《あつ》まって鬼《おに》の腕《うで》をみました。腕《うで》は赤《あか》さびのした鉄《てつ》のように堅《かた》くって、銀《ぎん》のような毛《け》が一面《いちめん》にはえていました。
 みんなは綱《つな》の武勇《ぶゆう》をほめて、また新《あたら》しくお酒《さけ》を飲《の》みはじめました。

     二

「七日《なのか》の間《あいだ》腕《うで》を預《あず》けておくぞ。」
 こういい残《のこ》した鬼《おに》の言葉《ことば》を綱《つな》は忘《わす》れずにいました。それで万一《まんいち》取《と》り返《かえ》されない用心《ようじん》に、綱《つな》は腕《うで》を丈夫《じょうぶ》な箱《はこ》の中に入《い》れて、門《もん》の外《そと》に、
「ものいみ」
 と書《か》いて張《は》り出《だ》して、ぴったり門《もん》を閉《し》めて、お経《きょう》をよんでいました。
 六日《むいか》の間《あいだ》は何事《なにごと》もありませんでした。七日《なのか》めの夕方《ゆうがた》にことことと門《もん》をたたくものがありました。綱《つな》の家来《けらい》が門《もん》のすきまからのぞいてみますと、白髪《しらが》のおばあさんが、杖《つえ》をついて、笠《かさ》をもって、門《もん》の外《そと》に立《た》っていました。家来《けらい》が、
「あなたはどなたです。」
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