心で、大僧正はわざとあたまに合わないちいさな輪をむりにはめ込んだので、お妃はひたいがいたんでなりませんでした。でも、それよりももっとおもたい輪がお妃の心にくびり込んではなれません。それはおにいさまたちをいたましくおもう心でした。それにくらべては、からだの痛みなどはまるでかんじないくらいでした。ただひと言、ことばを口にだしても、おにいさまたちの命にかかわることでしたから、くちびるはかたくむすんで、あくまでおし[#「おし」に傍点]をつづけました。でもその目は、やさしい、りっぱな王さまをこのましくおもってみていました。王さまは[#「は」は底本では「ほ」]エリーザのためには、どんなことでもなさいました。それでエリーザも、一日、一日と、日がたつにしたがって、ありったけの心をかたむけて、王さまをだいじにするようになりました。ああ、それを口にだして王さまにうちあけることができたら、そして心のかなしみをかたることができたら、どんなにうれしいことでしょう。けれどいまは、どこまでもおしでいなければなりません。おしのままでいて、しごとをしあげなければなりません。ですから、夜になると、王さまのおそばからそっと
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