からまり合いながら、水の上にたれていました。
エリーザはおばあさんに「さようなら」をいうと、ながれについて、この川口が広い海へながれ出している所まで下っていきました。
大きなすばらしい海が、むすめの目のまえにあらわれました。けれどひとつの帆もそのおもてにみえてはいませんでした。いっそうの小舟もそのうえにうかんではいませんでした。どうしてそれからさきへすすみましょう。王女は、浜のうえに、数しらずころがっている小石をながめました。水がその小石をどれもまるくすりへらしていました。ガラスでも、鉄くずでも、石でも、そこらにあるものは、王女のやわらかな手よりももっとやわらかな水のために、かたちをかえられていました。
「波はあきずに巻きかえっている。それで堅いものでもいつかすべっこくなる。わたしもそのとおりあきずにいつまでもやりましょう。あとからあとからきれいに寄せてくる波よ。おまえにいいことを教えてもらってよ。なんだかいつか、おまえたちのおかげでおにいさまたちのところへつれて行ってもらえるような気がするわ。」
うちよせられた海草の上に、白いはくちょうの羽根が十一枚のこっていました。それをエリーザは花たばにしてあつめました。その羽根の上には、水のしずくがたれていました。それは露の玉か、涙のしずくかわかりません。浜の上はいかにもさびしいものでした。けれど大海のけしきが、いっときもおなじようでなく、しじゅうそれからそれとかわるので、さほどさびしいともかんじませんでした。それは二三時間のあいだに、おだやかな陸にかこまれた内海が一年かかってするよりも、もっとたくさんの変化をみせました。するうち、まっくろな大きな雲がでて来ました。海も「おれだってむずかしい顔をするぞ。」というようにおもわれました。やがて風が吹きだして、波が白い横腹をうえに向けました。でも雲がまっ赤にかがやきだして、風がぴったりとまると、海はばら[#「ばら」に傍点]の花びらのようにみえました。それからまた青くなったり白くなったりしました。でもいかほど海がおだやかにないでも、やはり浜辺にはいつもさざなみがゆれていました。海の水はねむっているこどもの胸のように、やさしくふくれあがりました。
お日さまがちょうどしずもうとしたとき、十一羽の野のはくちょうが、めいめいあたまに金のかんむりをのせて、おかのほうへとんでくるところをエリーザはみました。一羽また一羽と、あとからあとから行儀よくつづいてくるのでそれはただひとすじながくしろい帯をひいてとるようにみえました。そのときエリーザは坂にあがって、そっとやぶかげにかくれました。はくちょうたちは、すぐそのそばへおりて来て、大きな白いつばさをばたばたやりました。いよいよお日さまが海のなかにしずんでしまうと、とたんに、はくちょうの羽根がぱったりおちて、十一人のりっぱな王子たちが、エリーザのおにいさまたちが、そこに立ちました。エリーザはおもわず、あッと大きなさけび声をたてました。それはおにいさまたちはずいぶん、せんとかわっていました。けれど、やはりそれにちがいないことが、すぐとわかったからでした。そこでみんなの腕のなかにとびこんでいって、ひとりひとり、名まえをよびました。王子たちは、そうして王女がまたでて来たのをみて、それはもうせいも高くなり、きりょうもずっとうつくしくなってはいましたけれど、じぶんたちのいもうとということがわかって、いいようもなくうれしくおもいました。みんなは泣いたりわらったりしました、そうして、こんどのおかあさまが、きょうだいのこらずに、どんなにひどいことをしたか、おたがいの話でやがてわかりました。
[#挿絵(fig42384_02.png)入る]
「ぼくたちきょうだいはね、」と、いちばん上のおにいさまがいいました。「みんな、お日さまが空にでているあいだ、はくちょうになってとびまわるが、お日さまがしずむといっしょに、また人間のかたちにかえるのだよ。だから、しじゅう気をつけて、お日さまがしずむころまでには、どこかに、かならず足を休める場所をみつけておかなければならないのさ。それをしないで、うかうか雲のほうへとんで行けば、たちまち人間とかわって、海の底へしずまなければならないのだよ。わたしたちはここに住んでいるのではない。海のむこうに、ここと同様、きれいな国がある。でもそこまでいく道はとても長くて、ひろい海のうえをわたっていかなければならない。その途中には夜をあかす島もない。ただちいさな岩がひとつ海のなかにつきでているだけだ。でもどうやら、そこにはみんながくっつき合ってすわるだけのひろさはある。海が荒れているときには、波がかぶさってくるが、それでも、その岩のあるのがどのくらいありがたいかしれない。そこでぼくたち、夜だけ、人間のかたちに
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