夢殿
楠山正雄
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)日本《にほん》の国《くに》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)三十一|代《だい》
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(例)[#ここから4字下げ]
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一
むかし日本《にほん》の国《くに》に、はじめて仏《ほとけ》さまのお教《おし》えが、外国《がいこく》から伝《つた》わって来《き》た時分《じぶん》のお話《はなし》でございます。
第《だい》三十一|代《だい》の天子《てんし》さまを用明天皇《ようめいてんのう》と申《もう》し上《あ》げました。この天皇《てんのう》がまだ皇太子《こうたいし》でおいでになった時分《じぶん》、お妃《きさき》の穴太部《あなとべ》の真人《まひと》の皇女《おうじょ》という方《かた》が、ある晩《ばん》御覧《ごらん》になったお夢《ゆめ》に、体《からだ》じゅうからきらきら金色《こんじき》の光《ひかり》を放《はな》って、なんともいえない貴《とうと》い様子《ようす》をした坊《ぼう》さんが現《あらわ》れて、お妃《きさき》に向《む》かい、
「わたしは人間《にんげん》の苦《くる》しみを救《すく》って、この世《よ》の中を善《よ》くしてやりたいと思《おも》って、はるばる西《にし》の方《ほう》からやって来《き》た者《もの》です。しばらくの間《あいだ》あなたのおなかを借《か》りたいと思《おも》う。」
といいました。
お妃《きさき》はびっくりなすって、
「そういう貴《とうと》いお方《かた》が、どうしてわたくしのむさくるしいおなかの中などへお入《はい》りになれましょう。」
とおっしゃいますと、その坊《ぼう》さんは、
「いや、けっしてその気《き》づかいには及《およ》ばない。」
と言《い》うが早《はや》いか踊《おど》り上《あ》がって、お妃《きさき》の思《おも》わず開《あ》けた口の中へぽんと跳《と》び込《こ》んでしまったと思《おも》うとお夢《ゆめ》はさめました。
目《め》がさめて後《のち》お妃《きさき》は、喉《のど》の中に何《なに》か固《かた》くしこるような、玉《たま》でもくくんでいるような、妙《みょう》なお気持《きも》ちでしたが、やがてお身重《みおも》におなりになりました。
さて翌年《よくねん》の正月元日《しょうがつがんじつ》の朝《あさ》、
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