。」
 と牝鹿《めじか》はいいました。
「海《うみ》を渡《わた》ればきっと途中《とちゅう》でかりゅうどに射《い》られて、殺《ころ》されるかも知《し》れません。」
 そう聞《き》いて、牡鹿《おじか》はこわくなりました。どうしようかと思《おも》って、とうとうその日は一|日《にち》ぐずぐず暮《く》らしていましたが、日が暮《く》れかかると、どうしてもがまんができなくなりました。もうなんでも野島《のじま》へ渡《わた》らずにはいられなくなりました。そこで夢野《ゆめの》の牝鹿《めじか》の止《と》めるのもきかずに、とうとう出かけて行きました。
 するとまったく占《うらな》いのとおり、海《うみ》を渡《わた》る途中《とちゅう》かりゅうどに見《み》つかって、牡鹿《おじか》は首《くび》を射《い》られて殺《ころ》されました。そしてそのなきがらは、雪《ゆき》のような塩《しお》の中に詰《つ》められて、人に食《た》べられてしまいました。
 ですから、うっかりじょうだんに占《うらな》いなどを立《た》てると、それがほんとうになって、とんだ災難《さいなん》をうけることがあるものです。



底本:「日本の諸国物語」講談社学
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