って、淡路《あわじ》の牝鹿《めじか》をうらんでいました。

     二

 ある日めずらしく牡鹿《おじか》は夢野《ゆめの》の牝鹿《めじか》の所《ところ》へ来《き》て、一|日《にち》遊《あそ》び暮《く》らしていました。そしてそのあくる朝《あさ》帰《かえ》ろうとする時《とき》、ふと悲《かな》しそうな、心配《しんぱい》そうな目をして、ため息《いき》を一つつきました。牝鹿《めじか》はふしぎに思《おも》って、
「あなた、どうかなさいましたか。大《たい》そう顔色《かおいろ》が悪《わる》いようですね。」
 とたずねました。
 牡鹿《おじか》は、
「なあに何《なん》でもないよ。」
 といって、強《つよ》く首《くび》を振《ふ》りました。
「いいえ、ため息《いき》をおつきになったりなんかして、きっと何《なに》か御心配《ごしんぱい》なことがあるのでしょう。わけを話《はな》して下《くだ》さいまし。」
 と牝鹿《めじか》がしつっこくせめました。そこで牡鹿《おじか》もしかたなしに、
「じつはゆうべ、いやな夢《ゆめ》を見《み》てね。」
 といいました。
「それはどんな夢《ゆめ》。」
「何《なん》でもわたしが野《の
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