家来《けらい》に、ひとりもついてくるものがないのです。なぜというに、王子がはいるといっしょに、すぐ森の口がしまってしまったからです。けれども、王子はかまわずに、ずんずん進んでいきました。若いやさしい、そして火のようにあつい心をもった王子は、いつも勇気のあるものです。
 王子はやがて大きな広い庭に出ました。そこでまず見たものは、どんなこわいもの知らずでも、ぞっとして、骨までこおるようなものでした。なにもかも、気味《きみ》のわるいほど、しいんとしずまりかえっていました。そこにも、ここにも、目に見えるものは、人間や動物が、みんな死んだもののように、ぐんにゃり手足をなげ出しているすがたでした。けれども、そこに立っている、おやといスイス兵の鼻いきは、ぷんとお酒くさいし、ぽおっと赤いほほをしているのを見ても、この連中《れんじゅう》は、みんな眠っているのだということが、すぐ分かりました。しかも、その手にもった茶わんには、まだぶどう酒《しゅ》のしずくがのこっているので、なかまとお酒《さか》もりのさいちゅう、眠ってしまったのだということまで知れました。
 王子はそれから、大理石《だいりせき》をしきつめた
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