力《りき》んだひょうしに、首《くび》がすぽんと抜《ぬ》けてしまいました。狐《きつね》は、そこでいよいよとくいになって、こんどは虎《とら》に向《む》かい、
「どうしたね。わたしにさからえば、獅子《しし》だってこのとおりだ。君《きみ》もいいかげんにおそれいるがいいよ。」
 といいますと、虎《とら》はなかなか承知《しょうち》しないで、
「よし、そんなら千|里《り》のやぶを、かけっこしよう。」
 といいだしました。狐《きつね》は困《こま》った顔《かお》もしないで、
「うん、いいとも。」
 といって、さっそく競争《きょうそう》の支度《したく》にかかりました。やがて一、二、三のかけ声《ごえ》で、虎《とら》と狐《きつね》は駆《か》け出《だ》したと思《おも》うと、狐《きつね》はひょいとうしろから虎《とら》の背中《せなか》に、のっかってしまいました。虎《とら》はそんなことは知《し》りませんから、むやみに駆《か》けるわ、駆《か》けるわ、千|里《り》のやぶもほんとうに一ッ飛《と》びで飛《と》んで行ってしまいますと、さすがに体中《からだじゅう》大汗《おおあせ》になっていました。するとそれよりも先《さき》に狐《
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