お見《み》せ。」
 といいました。
 山姥《やまうば》が戸《と》のすきまから手を出《だ》しましたから、子供《こども》たちがさわってみますと、それは松《まつ》の木のように節《ふし》くれだって、がさがさしていました。子供《こども》たちはまた、
「いいえ。あけない、あけない。おかあさんはもっとつるつるして柔《やわ》らかな手をしている。お前《まえ》は山姥《やまうば》にちがいない。」
 といいました。
 そこで山姥《やまうば》は裏《うら》の畑《はたけ》へ行って、芋《いも》がらを取《と》って、手の先《さき》にぐるぐる巻《ま》きつけました。
 そして山姥《やまうば》は三|度《ど》めにうちの前《まえ》に立《た》って、とんとんと戸《と》をたたいて、
「子供《こども》たちや、あけておくれ。おかあさんだよ。みんなのすきなおみやげを、たんと買《か》って来《き》たからね。」
 といいますと、子供《こども》たちは中から、
「じゃあ、手をお見《み》せ。ほんとうにおかあさんだか、どうだか、見《み》てやるから。」
 といいました。
 山姥《やまうば》はまた戸《と》のすきまから手を出《だ》しました。こんどは手がつるつるして柔《やわ》らかだったので、それではおかあさんにちがいないと思《おも》って、子供《こども》たちは戸《と》をあけて、山姥《やまうば》を中へ入《い》れました。

       二

 おかあさんに化《ば》けた山姥《やまうば》は、うちの中に入《はい》ると、さっそくお夕飯《ゆうはん》にして、子供《こども》たちがびっくりするほどたくさん食《た》べて、今夜《こんや》はくたびれたから早《はや》く寝《ね》ようといって、いつものとおり末《すえ》っ子《こ》の三郎《さぶろう》を連《つ》れて、奥《おく》の間《ま》に入《はい》って寝《ね》ました。太郎《たろう》と次郎《じろう》は二人《ふたり》で、おもての間《ま》に寝《ね》ました。
 夜中《よなか》にふと、太郎《たろう》と次郎《じろう》が目を覚《さ》ましますと、奥《おく》の間《ま》でだれかが、何《なん》だかぼりぼり物《もの》を食《た》べているような音《おと》がしました。それは山姥《やまうば》が、末《すえ》っ子《こ》の三郎《さぶろう》をつかまえて食《た》べているのでした。
「おかあさん、おかあさん、それは何《なん》の音《おと》ですか。」
 と、太郎《たろう》が聞《き》きました。
「おなかがすいたから、たくあんを食《た》べているのだよ。」
 と、山姥《やまうば》がいいました。
「わたいも食《た》べたいなあ。」
 と、次郎《じろう》がいいました。
「さあ、上《あ》げよう。」
 と、山姥《やまうば》はいって、三郎《さぶろう》の小指《こゆび》をかみ切《き》って、子供《こども》たちの居《い》る方《ほう》へ投《な》げ出《だ》しました。太郎《たろう》がそれを拾《ひろ》ってみると、暗《くら》くってよく分《わ》かりませんけれど、何《なん》だか人間《にんげん》の指《ゆび》のようでした。太郎《たろう》はびっくりして、そっと布団《ふとん》の中で、次郎《じろう》の耳《みみ》にささやきました。
「奥《おく》に居《い》るのは山姥《やまうば》にちがいない。山姥《やまうば》がおかあさんに化《ば》けて、三郎《さぶろう》ちゃんを食《た》べているのだよ。ぐずぐずしていると、こんどはわたいたちが食《た》べられる。早《はや》く逃《に》げよう、逃《に》げよう。」
 太郎《たろう》と次郎《じろう》はそっと相談《そうだん》をしていますと、奥《おく》ではもりもり山姥《やまうば》が三郎《さぶろう》を食《た》べる音《おと》が、だんだん高《たか》く聞《き》こえました。
 その時《とき》次郎《じろう》は布団《ふとん》から頭《あたま》を出《だ》して、
「おかあさん、おかあさん、お小用《こよう》に行きたくなりました。」
 といいました。
「じゃあ、起《お》きて外《そと》へ出て、しておいでなさい。」
「戸《と》があきません。」
「にいさんにあけておもらいなさい。」
 そこで太郎《たろう》と次郎《じろう》は逃《に》げ支度《じたく》をして、のこのこ布団《ふとん》からはい出《だ》して、戸《と》をあけて外《そと》へ出ました。空《そら》はよく晴《は》れて、星《ほし》がきらきら光《ひか》っていました。二人《ふたり》はお庭《にわ》の井戸《いど》のそばの桃《もも》の木に、なたで切《き》り形《がた》をつけて、足《あし》がかりにして木の上まで登《のぼ》りました。そしてそっと息《いき》を殺《ころ》してかくれていました。
 いつまでたっても、きょうだいがお小用《こよう》から帰《かえ》って来《こ》ないので、山姥《やまうば》はのそのそさがしに出て来《き》ました。明《あ》け方《がた》の月《つき》がちょうど昇《のぼ》りかけ
前へ 次へ
全9ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
楠山 正雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング