はぐろは、つけかけたまま途中《とちゅう》でやめたので、すずめのくちばしは、いまだに下だけ黒《くろ》くって、上の半分《はんぶん》はいつまでも白いままでいるのです。
 それとはちがって、きつつきは、おかあさんの死《し》んだ知《し》らせが来《き》ても、鏡《かがみ》に向《む》かって紅《べに》をつけたり、おしろいをぬったり、おしゃれに夢中《むちゅう》になっていて、とうとう親《おや》の死《し》に目に合《あ》わなかったものですから、神《かみ》さまがおおこりになって、
「お前《まえ》は木の中の虫《むし》でも食《た》べているがいい。」
 とお申《もう》し渡《わた》しになりました。それできつつきはいつも木の枝《えだ》から枝《えだ》を渡《わた》り歩《ある》いて、ひもじそうに虫《むし》をさがしているのです。


   物《もの》のいわれ(下)[#「(下)」は縦中横]

     ふくろうと烏《からす》

 むかし、ふくろうという鳥《とり》は、染物屋《そめものや》でした。いろいろの鳥《とり》がふくろうの所《ところ》へ来《き》ては、赤《あか》だの、青《あお》だの、ねずみ色《いろ》だの、るり色《いろ》だの、黄色《きいろ》だの、いろいろなきれいな色《いろ》に体《からだ》を染《そ》めてもらいました。烏《からす》がそれを見《み》て、うらやましがって、もともと大《たい》そうなおしゃれでしたから、いちばん美《うつく》しい色《いろ》に染《そ》めてもらおうと思《おも》って、ふくろうの所《ところ》にやって来《き》ました。
「ふくろうさん、ふくろうさん。わたしの体《からだ》を、何《なに》かほかの鳥《とり》とまるでちがった色《いろ》に染《そ》めて下《くだ》さい。世界中《せかいじゅう》の鳥《とり》をびっくりさせてやるのだから。」
 と、烏《からす》がいいました。
「うん、よしよし。」
 とふくろうは請《う》け合《あ》って、さんざん首《くび》をひねって考《かんが》えていましたが、やがて烏《からす》をどっぷり、真《ま》っ黒《くろ》な墨《すみ》のつぼにつっ込《こ》みました。
「さあ、これでほかに類《るい》のない色《いろ》の鳥《とり》になった。」
 とふくろうはいいながら、烏《からす》を引《ひ》き上《あ》げてやりました。烏《からす》はどんな美《うつく》しい色《いろ》に染《そ》まったろうと、楽《たの》しみにしながら、急《いそ》いで鏡《かがみ》の前《まえ》へ行って見《み》ますと、まあ、驚《おどろ》きました、頭《あたま》からしっぽの先《さき》まで真《ま》っ黒々《くろぐろ》と、目も鼻《はな》も分《わ》からないようになっているではありませんか。そこで烏《からす》は、よけい真《ま》っ黒《くろ》になっておこりながら、
「何《なん》だってこんな色《いろ》に染《そ》めたのだ。」
 といいますと、ふくろうは、
「だって外《ほか》に類《るい》のない色《いろ》といえば、これだよ。」
 といって、すましていました。烏《からす》はくやしがって、
「よしよし、ひとをこんな目に合《あ》わせて。今《いま》にきっとかたきをとってやるから。」
 とうらめしそうにいいました。
 その時《とき》から烏《からす》とふくろうとは、かたき同士《どうし》になりました。そしてふくろうは烏《からす》のしかえしをこわがって、昼間《ひるま》はけっして姿《すがた》を見《み》せません。

     蜜蜂《みつばち》

 むかし、むかし、大昔《おおむかし》、神《かみ》さまがいろいろの生《い》き物《もの》をお作《つく》りになった時《とき》に、たくさんの蜂《はち》をお作《つく》りになりました。そのたくさんの蜂《はち》の中に、蜜蜂《みつばち》だけが針《はり》を持《も》っていませんでした。蜜蜂《みつばち》は不足《ふそく》そうな顔《かお》をして、神《かみ》さまの所《ところ》へ行って、
「ほかの蜂《はち》はみんな針《はり》を持《も》っておりますが、わたくしだけは針《はり》がありません。どうか針《はり》をつけて下《くだ》さい。」
 といいました。
「いいや、お前《まえ》は人間《にんげん》に飼《か》われるのだから、針《はり》はいらない。ぜひほしいというなら、針《はり》をやってもいいが、人間《にんげん》を刺《さ》すことはならないぞ。もし間違《まちが》えて刺《さ》したら、針《はり》が折《お》れて、命《いのち》がなくなるぞ。」
 と、神《かみ》さまがおっしゃいました。
「けっして刺《さ》しませんから、どうぞ針《はり》を下《くだ》さい。」
 と、蜜蜂《みつばち》がいいました。
「それなら針《はり》をやろう。」
 と、神《かみ》さまがおっしゃって、蜜蜂《みつばち》に針《はり》を下《くだ》さいました。そこで約束《やくそく》のとおり、蜜蜂《みつばち》には針《はり》はあっても、人
前へ 次へ
全9ページ中7ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
楠山 正雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング