っ黒《くろ》な手足《てあし》をしていますから、けっしてだまされてはいけませんよ。」
といい聞《き》かせました。すると子供《こども》たちは、
「おかあさん、心配《しんぱい》しないでもいいよ。おかあさんのいうとおりにして待《ま》っているからね。」
といったので、おかあさんは安心《あんしん》して出て行きました。
ところがじき帰《かえ》って来《く》るといったおかあさんは、なかなか帰《かえ》って来《こ》ないで、そろそろ日が暮《く》れかけてきました。子供《こども》たちはだんだん心配《しんぱい》になってきました。「おかあさんはどうしたんだろうね。」とみんなでいい合《あ》っていますと、だれかおもての戸《と》をとんとんとたたいて、
「子供《こども》たちや、あけておくれ。おかあさんだよ。お前《まえ》たちのすきなおみやげを、たんと買《か》って来《き》たからね。」
といいました。
けれども子供《こども》たちは、しゃがれたがあがあ声《ごえ》をしているから、おかあさんではない。山姥《やまうば》が化《ば》けて来《き》たにちがいないと思《おも》って、
「あけない、あけない、お前《まえ》はおかあさんじゃあないよ。おかあさんはやさしい声《こえ》だ。お前《まえ》の声《こえ》はがあがあしゃがれている。お前《まえ》はきっと山姥《やまうば》にちがいない。」
といいました。
ほんとうにそれは山姥《やまうば》にちがいありませんでした。山姥《やまうば》は途中《とちゅう》で、おかあさんをつかまえて食《た》べてしまったのです。そしておかあさんに化《ば》けて、こんどは子供《こども》たちを食《た》べに来《き》たのです。けれども、子供《こども》たちが入《い》れてくれないものですから、困《こま》って、村《むら》の油屋《あぶらや》へ行って、油《あぶら》を一|升《しょう》盗《ぬす》んで、それをみんな飲《の》んで、喉《のど》をやわらかにして、また戻《もど》って来《き》て、とんとんと戸《と》をたたきました。そして、
「子供《こども》たちや、あけておくれ。おかあさんだよ。みんなのすきなおみやげを、たんと買《か》って来《き》たからね。」
といいました。
こんどはそっくりおかあさんと同《おな》じような、やさしいいい声《こえ》でした。けれども子供《こども》たちはまだほんとうにしないで、
「じゃあ、先《さき》に手を出《だ》して
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