てつ》の針《はり》を植《う》えたようなひげがいっぱい顔《かお》に生《は》えていました。それから体《からだ》の重《おも》みが六十四|斤《きん》もあって、怒《おこ》って力《ちから》をうんと入《い》れると、その四|倍《ばい》も重《おも》くなるといわれていました。それでどんな荒《あら》えびすでも、虎狼《とらおおかみ》のような猛獣《もうじゅう》でも、田村麻呂《たむらまろ》に一目《ひとめ》にらまれると、たちまち一縮《ひとちぢ》みに縮《ちぢ》みあがるというほどでした。その代《かわ》り機嫌《きげん》よくにこにこしている時《とき》は、三つ四つの子供《こども》もなついて、ひざに抱《だ》かれてすやすやと眠《ねむ》るというほどの人でした。ですから部下《ぶか》の兵士《へいし》たちも田村麻呂《たむらまろ》を慕《した》いきって、そのためには火水《ひみず》の中にもとび込《こ》むことをいといませんでした。
田村麻呂《たむらまろ》はそんなに強《つよ》い人でしたけれど、またたいそう心《こころ》のやさしい人で、人並《ひとな》みはずれて信心深《しんじんぶか》く、いつも清水《きよみず》の観音様《かんのんさま》にかかさずお参《ま
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