。しばらく行くと、後《うし》ろでだしぬけに、
「もしもし。」
 という声《こえ》がしました。その時《とき》はじめてふり向《む》いてみますと、今《いま》までそこにとぐろをまいていた大蛇《おろち》は影《かげ》も形《かたち》もなくなって、青《あお》い着物《きもの》を着《き》た小さな男《おとこ》が、しょんぼりそこに座《すわ》って、おじぎをしていました。
 藤太《とうだ》は不思議《ふしぎ》そうにその男《おとこ》の様子《ようす》をながめて、
「今《いま》わたしを呼《よ》んだのはお前《まえ》か。」
 と聞《き》きました。小男《こおとこ》はまたていねいに頭《あたま》を下《さ》げて、
「はい、わたくしでございます。じつはぜひあなたにお願《ねが》いしたいことがございます。」
 といいました。
「それは聞《き》いてあげまいものでもないが、いったいお前《まえ》は何者《なにもの》だ。」
「わたくしは長年《ながねん》この湖《みずうみ》の中に住《す》んでいる龍王《りゅうおう》でございます。」
「ふん、龍王《りゅうおう》。するとさっき橋《はし》の上に寝《ね》ていたのはお前《まえ》かね。」
「へい。」
「それで用《よう
前へ 次へ
全10ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
楠山 正雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング