から、龍王《りゅうおう》は残念《ざんねん》がって、
「ではつまらない物《もの》でございますが、これをお礼《れい》のおしるしにお持《も》ち帰《かえ》り下《くだ》さいまし。」
といいました。そして家来《けらい》にいいつけて、奥《おく》から米《こめ》一|俵《ぴょう》と、絹《きぬ》一|疋《ぴき》と、釣《つ》り鐘《がね》を一つ出《だ》させて、それを藤太《とうだ》に贈《おく》りました。そしてこの土産《みやげ》の品《しな》を家来《けらい》に担《かつ》がせて、龍王《りゅうおう》は瀬田《せた》の橋《はし》の下まで見送《みおく》って行きました。
藤太《とうだ》が龍王《りゅうおう》からもらった品《しな》は、どれもこれも不思議《ふしぎ》なものばかりでした。米俵《こめだわら》はいくらお米《こめ》を出《だ》してもあとからあとからふえて、空《から》になることがありませんでした。絹《きぬ》はいくら裁《た》っても裁《た》っても減《へ》りません。釣《つ》り鐘《がね》はたたくと近江《おうみ》の国中《くにじゅう》に聞《き》こえるほどの高《たか》い音《おと》をたてました。藤太《とうだ》は釣《つ》り鐘《がね》を三井寺《みいでら》に納《おさ》めて、あとの二品《ふたしな》を家《いえ》につたえていつまでも豊《ゆた》かに暮《く》らしました。
底本:「日本の英雄伝説」講談社学術文庫、講談社
1983(昭和58)年6月10日第1刷発行
入力:鈴木厚司
校正:大久保ゆう
2003年9月29日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全3ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
楠山 正雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング