を上《あ》げますから。」
「それはありがたいな。何《なん》だね、そのいいものというのは。」
こういいながら、おじいさんはわらじをぬいで、上に上《あ》がりました。その間《ま》に、おばあさんは戸棚《とだな》の中からさっきの桃《もも》を重《おも》そうにかかえて来《き》て、
「ほら、ごらんなさいこの桃《もも》を。」
と言《い》いました。
「ほほう、これはこれは。どこからこんなみごとな桃《もも》を買《か》って来《き》た。」
「いいえ、買《か》って来《き》たのではありません。今日《きょう》川で拾《ひろ》って来《き》たのですよ。」
「え、なに、川で拾《ひろ》って来《き》た。それはいよいよめずらしい。」
こうおじいさんは言《い》いながら、桃《もも》を両手《りょうて》にのせて、ためつ、すがめつ、ながめていますと、だしぬけに、桃《もも》はぽんと中から二つに割《わ》れて、
「おぎゃあ、おぎゃあ。」
と勇《いさ》ましいうぶ声《こえ》を上《あ》げながら、かわいらしい赤《あか》さんが元気《げんき》よくとび出《だ》しました。
「おやおや、まあ。」
おじいさんも、おばあさんも、びっくりして、二人《ふたり》いっしょに声《こえ》を立《た》てました。
「まあまあ、わたしたちが、へいぜい、どうかして子供《こども》が一人《ひとり》ほしい、ほしいと言《い》っていたものだから、きっと神《かみ》さまがこの子をさずけて下《くだ》さったにちがいない。」
おじいさんも、おばあさんも、うれしがって、こう言《い》いました。
そこであわてておじいさんがお湯《ゆ》をわかすやら、おばあさんがむつきをそろえるやら、大《おお》さわぎをして、赤《あか》さんを抱《だ》き上《あ》げて、うぶ湯《ゆ》をつかわせました。するといきなり、
「うん。」
と言《い》いながら、赤《あか》さんは抱《だ》いているおばあさんの手をはねのけました。
「おやおや、何《なん》という元気《げんき》のいい子だろう。」
おじいさんとおばあさんは、こう言《い》って顔《かお》を見合《みあ》わせながら、「あッは、あッは。」とおもしろそうに笑《わら》いました。
そして桃《もも》の中から生《う》まれた子だというので、この子に桃太郎《ももたろう》という名《な》をつけました。
二
おじいさんとおばあさんは、それはそれはだいじにして桃太郎《ももたろう
前へ
次へ
全9ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
楠山 正雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング