にいかめしいお城《しろ》をかまえて、少《すこ》しでも領分《りょうぶん》をひろめようというので、お隣同士《となりどうし》始終《しじゅう》戦争《せんそう》ばかりしあっていました。
為朝《ためとも》は九州《きゅうしゅう》に下《くだ》ると、さっそく肥後《ひご》の国《くに》に根城《ねじろ》を定《さだ》め、阿蘇忠国《あそのただくに》という大名《だいみょう》を家来《けらい》にして、自分勝手《じぶんがって》に九州《きゅうしゅう》の総追捕使《そうついほし》という役《やく》になって、九州《きゅうしゅう》の大名《だいみょう》を残《のこ》らず打《う》ち従《したが》えようとしました。九州《きゅうしゅう》の総追捕使《そうついほし》というのは、九州《きゅうしゅう》の総督《そうとく》という意味《いみ》なのです。すると外《ほか》の大名《だいみょう》たちは、これも半分《はんぶん》はこわいし、半分《はんぶん》はいまいましがって、
「為朝《ためとも》は総追捕使《そうついほし》だなんぞといって、いばっているが、いったいだれからゆるされたのだ。生意気《なまいき》な小僧《こぞう》じゃないか。」
といいいい、てんでんのお城《しろ》に立《た》てこもって、為朝《ためとも》が攻《せ》めて来《き》たら、あべこべにたたき伏《ふ》せてやろうと待《ま》ちかまえていました。
為朝《ためとも》は聞《き》くと笑《わら》って、
「はッは。たかが九州《きゅうしゅう》の小大名《こだいみょう》のくせに、ばかなやつらだ。いったいおれを何《なん》だと思《おも》っているのだろう。子供《こども》だって、りっぱな源氏《げんじ》の本家《ほんけ》の八|男《なん》じゃないか。」
こういって、すぐ阿蘇忠国《あそのただくに》を案内者《あんないしゃ》にして、わずかな味方《みかた》の兵《へい》を連《つ》れたなり、九州《きゅうしゅう》の城《しろ》という城《しろ》を片《かた》っぱしからめぐり歩《ある》いて、十三の年《とし》の春《はる》から十五の年《とし》の秋《あき》まで、大戦《おおいくさ》だけでも二十|何度《なんど》、その外《ほか》小《ちい》さな戦《いくさ》は数《かず》のしれないほどやって、攻《せ》め落《お》とした城《しろ》の数《かず》だけでも何《なん》十|箇所《かしょ》というくらいでした。それで三|年《ねん》めの末《すえ》にはとうとう九州《きゅうしゅう》残《のこ》らず打《う》ち従《したが》えて、こんどこそほんとうに総追捕使《そうついほし》になってしまいました。
すると為朝《ためとも》に打《う》ち従《したが》えられた大名《だいみょう》たちは、うわべは降参《こうさん》した体《てい》に見《み》せかけながら、腹《はら》の中ではくやしくってくやしくってなりませんでした。そこでそっと都《みやこ》に使《つか》いを立《た》てて、為朝《ためとも》が九州《きゅうしゅう》に来《き》てさんざん乱暴《らんぼう》を働《はたら》いたこと、天子《てんし》さまのお許《ゆる》しも受《う》けないで、自分勝手《じぶんかって》に九州《きゅうしゅう》の総追捕使《そうついほし》になったことなどをくわしく手紙《てがみ》に書《か》き、その上に為朝《ためとも》の悪口《わるくち》を有《あ》ること無《な》いことたくさんにならべて、どうか一|日《にち》も早《はや》く為朝《ためとも》をつかまえて、九州《きゅうしゅう》の人民《じんみん》の難儀《なんぎ》をお救《すく》い下《くだ》さいと申《もう》し上《あ》げました。
天子《てんし》さまはたいそうお驚《おどろ》きになって、さっそく役人《やくにん》をやって為朝《ためとも》をお呼《よ》び返《かえ》しになりました。けれども為朝《ためとも》は、
「きっとこれはだれかが天子《てんし》さまに讒言《ざんげん》したにちがいない。天子《てんし》さまには、間違《まちが》いだからといって、よく申《もう》し上《あ》げてくれ。」
といって、役人《やくにん》を追《お》い返《かえ》してしまいました。
為朝《ためとも》がいうことをきかないので、天子《てんし》さまはお怒《おこ》りになって、子供《こども》の悪《わる》いのは親《おや》のせいだからというので、おとうさんの為義《ためよし》を免職《めんしょく》して、隠居《いんきょ》させておしまいになりました。
為朝《ためとも》は、おとうさんが自分《じぶん》の代《か》わりに罰《ばつ》を受《う》けたということを聞《き》きますと、はじめてびっくりしました。
「おれは天子《てんし》さまのお罰《ばつ》をうけることをこわがって、都《みやこ》へ行かないのではない。それを自分《じぶん》が行かないために、年《とし》を取《と》られたおとうさんがおとがめをうけるというのはお気《き》の毒《どく》なことだ。そういうわけなら一|日《にち》も早《
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