形《かたち》が見《み》えました。
為朝《ためとも》はだんだんそばへよってみますと、岸《きし》は岩《いわ》がけわしい上に波《なみ》が高《たか》いので、船《ふね》が着《つ》けられません。さんざん回《まわ》りをこぎ回《まわ》りますと、やっと平《たい》らな州《す》のようなところがあって、島《しま》の中から小《ちい》さな川がそこに流《なが》れ出《だ》していました。
為朝《ためとも》はそこから上《あ》がって、ずんずん奥《おく》へ入《はい》って見《み》ますと、一めん、岩《いわ》でたたんだような土地《とち》で、田《た》もなければ畠《はた》もありません。ところどころに見《み》なれない草木《くさき》が生《は》えて、珍《めずら》しい匂《にお》いの花《はな》が咲《さ》いていました。
いくら歩《ある》いても家《いえ》らしいものも見《み》えませんでしたが、そのうちいつどこから出て来《き》たか、一|丈《じょう》も背《せい》の高《たか》さのある大男《おおおとこ》がのそのそと出て来《き》ました。まっくろな体《からだ》に毛《け》がもじゃもじゃ生《は》えて、頭《あたま》の髪《かみ》の毛《け》はまっ赤《か》で、針《はり》を植《う》えたようでした。
為朝《ためとも》は不思議《ふしぎ》に思《おも》って、
「この島《しま》は何《なん》という島《しま》だ。」
と大男《おおおとこ》の一人《ひとり》に聞《き》きますと、
「鬼《おに》ガ島《しま》といいます。」
とこたえました。
為朝《ためとも》は、いよいよ珍《めずら》しく思《おも》って、
「じゃあお前《まえ》たちは鬼《おに》か。それとも先祖《せんぞ》が鬼《おに》だったのか。」
とたずねました。
「そうです。わたくしどもは鬼《おに》の子孫《しそん》です。」
「鬼《おに》ガ島《しま》なら、宝《たから》があるだろう。」
「むかしほんとうの鬼《おに》だった時分《じぶん》には、かくれみのだの、かくれがさだの、水の上を浮《う》く靴《くつ》だのというものがあったのですが、今《いま》では半分《はんぶん》人間《にんげん》になってしまって、そういう宝《たから》もいつの間《ま》にかなくなってしまいました。」
「よその島《しま》へ渡《わた》ったことはないか。」
「むかしは船《ふね》がなくっても、ずんずん、よその島《しま》へ行って、人をとったりしたこともありましたが、今《いま》では船《ふね》もないし、たまによそから風《かぜ》にふきつけられてくる船《ふね》があっても、波《なみ》が荒《あら》いので、岸《きし》に上《あ》がろうとすると岩《いわ》にぶつかって砕《くだ》けてしまうのです。」
「何《なに》を食《た》べて生《い》きている。」
「魚《さかな》と鳥《とり》を食《た》べます。魚《さかな》はひとりでに磯《いそ》に上《あ》がって来《き》ます。穴《あな》を掘《ほ》ってその中にかくれて、鳥《とり》の声《こえ》をまねていると、鳥《とり》はだまされて穴《あな》の中にとび込《こ》んで来《き》ます。それをとって食《た》べるのです。」
こういっている時《とき》に、ひよどりのような鳥《とり》がたくさん空《そら》の上をかけって来《き》ました。為朝《ためとも》はもって来《き》た弓《ゆみ》に矢《や》をつがえて、鳥《とり》に向《む》かって射《い》かけますと、すぐ五六|羽《ぱ》ばたばたと重《かさ》なり合《あ》って落《お》ちて来《き》ました。
島《しま》の大男《おおおとこ》は弓矢《ゆみや》を見《み》たのは初《はじ》めてなので、目をまるくして見《み》ていましたが、空《そら》を飛《と》んでいるものが、射落《いお》とされたのを見《み》て、舌《した》をまいておじおそれました。そして為朝《ためとも》を神《かみ》さまのように敬《うやま》いました。
為朝《ためとも》は鬼《おに》ガ島《しま》を平《たい》らげたついでに、ずんずん船《ふね》をこぎすすめて、やがて伊豆《いず》の島々《しまじま》を残《のこ》らず自分《じぶん》の領分《りょうぶん》にしてしまいました。そして鬼《おに》ガ島《しま》から大男《おおおとこ》を一人《ひとり》つれて、大島《おおしま》へ帰《かえ》って来《き》ました。
大島《おおしま》の者《もの》は、為朝《ためとも》が小船《こぶね》に乗《の》って出たなり未《いま》だに帰《かえ》って来《こ》ないので、どうしたのかと思《おも》っていますと、ある日《ひ》恐《おそ》ろしい鬼《おに》をつれてひょっこり帰《かえ》って来《き》たので、みんなびっくりしてしまいました。
六
こうして為朝《ためとも》は十|年《ねん》たたないうちに、たくさんの島《しま》を討《う》ち従《したが》えて、海《うみ》の王《おう》さまのような勢《いきお》いになりました。すると為朝《ためとも》のために大島《
前へ
次へ
全8ページ中7ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
楠山 正雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング