出《だ》して、そこらを見回《みまわ》りました。けれども、何《なに》もそこにはほえ立《た》てるような怪《あや》しいものの、影《かげ》も形《かたち》も見《み》えませんでした。ほかの犬《いぬ》たちも目を覚《さ》まさせられて、いっしょにわんわんほえながら、これもやはり獲物《えもの》をかぎ回《まわ》っていましたが、何《なに》も見《み》つからないので、すごすご、しっぽを振《ふる》ってもどって来《き》ました。
その中でも、さっきの犬《いぬ》は、あいかわらず気違《きちが》いのようにほえ回《まわ》って、主人《しゅじん》のすそを引《ひ》っ張《ぱ》るやら、背中《せなか》に飛《と》びつくやら、たいそうらんぼうになって、しまいには今《いま》にもかみつくかと思《おも》うように、はげしく主人《しゅじん》にほえかかりました。だんだん、その様子《ようす》がおそろしくなるので、りょうしも気味《きみ》が悪《わる》くなりました。刀《かたな》を抜《ぬ》いておどしますと、犬《いぬ》はなおなおはげしく狂《くる》い回《まわ》って、りょうしの振《ふ》り上《あ》げる刀《かたな》の下をくぐって、いきなりその胸《むね》に飛《と》びつきました。りょうしはびっくりして、思《おも》わず犬《いぬ》をつき放《はな》して、振《ふ》り上《あ》げていた刀《かたな》で、犬《いぬ》の首《くび》を切《き》り落《お》としてしまいました。山の中があんまり寂《さび》しいので、気《き》が変《へん》になって、犬《いぬ》が狂《くる》い出《だ》したのだと、りょうしは思《おも》ったのでしょう。
ところが驚《おどろ》いたことには、切《き》られた犬《いぬ》の首《くび》は、いきなり飛《と》び上《あ》がって、りょうしの眠《ねむ》っていた頭《あたま》の上の木の枝《えだ》にかみつきました。すると暗《くら》やみの中から、うう、うう、とうなるようなものすごい声《こえ》が聞《き》こえました。やがてばっさりと、まるで大木《たいぼく》でも倒《たお》れたような音《おと》がして、何《なに》か上から大きなものが落《お》ちてきました。りょうしは驚《おどろ》いて、火《ひ》をともしてよく見《み》ますと、四五|間《けん》もありそうな長《なが》さのおそろしい大蛇《おろち》が、とぐろを巻《ま》いたまま落《お》ちてきたのでした。そののどに犬《いぬ》の首《くび》がしっかりとかみついていました。木の
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