の中にかくして、背中《せなか》に背負《せお》って、片手《かたて》に金剛杖《こんごうづえ》をつき、片手《かたて》に珠数《じゅず》をもって、脚絆《きゃはん》の上に草鞋《わらじ》をはき、だれの目にも山の中を修行《しゅぎょう》して歩《ある》く山伏《やまぶし》としか見《み》えないような姿《すがた》にいでたちました。

     二

 六|人《にん》の武士《ぶし》はいくつとなくけわしい山を越《こ》えて大江山《おおえやま》のふもとに着《つ》きました。たまたまきこりに会《あ》えば道《みち》を聞《き》き聞《き》き、鬼《おに》の岩屋《いわや》のあるという千丈《せんじょう》ガ岳《たけ》を一《ひと》すじに目《め》ざして、谷《たに》をわたり、峰《みね》を伝《つた》わって、奥《おく》へ奥《おく》へとたどって行きました。
 だんだん深《ふか》く入《はい》って行って、まっくらな林《はやし》の中の、岩《いわ》ばかりのでこぼこした道《みち》をよじて行きますと、やがて大きな岩室《いわむろ》の前《まえ》に出ました。その中に小さな小屋《こや》をつくって、三|人《にん》のおじいさんが住《す》んでいました。頼光《らいこう》はこんな山奥《やまおく》で不思議《ふしぎ》だと思《おも》って、これも鬼《おに》の化《ば》けたのではないかと油断《ゆだん》のない目で見《み》ていますと、おじいさんたちはその様子《ようす》を覚《さと》ったとみえて、にこにこしながら、ていねいに頭《あたま》を下《さ》げて、
「わたくしどもは決《けっ》して変化《へんげ》でも、鬼《おに》の化《ば》けたのでもありません。一人《ひとり》は摂津《せっつ》の国《くに》から、一人《ひとり》は紀伊《きい》の国《くに》から、一人《ひとり》は京都《きょうと》に近《ちか》い山城《やましろ》の国《くに》から来《き》たものです。あの山の奥《おく》に住《す》む酒呑童子《しゅてんどうじ》のために妻《つま》や子を取《と》られて残念《ざんねん》でたまりません。どうかして敵《かたき》を取《と》りたいと思《おも》って、ここまで上《のぼ》っては来《き》ましたが、わたくしどもの力《ちから》ではどうすることもできませんから、ここにこうしてあなた方《がた》のおいでを待《ま》ちうけていました。山伏《やまぶし》の姿《すがた》にやつしてはおいでになりますが、あなた方《がた》はきっと酒呑童子《しゅてんどうじ》を退治《たいじ》するために、京都《きょうと》からお下《くだ》りになった方々《かたがた》でしょう。さあ、これからわたくしどもがこの山の御案内《ごあんない》をいたしますから、どうぞあの鬼《おに》を退治《たいじ》して、わたくしどもの敵《かたき》をいっしょに討《う》っていただきとうございます。」
 といいました。
 頼光《らいこう》はそれを聞《き》いてやっと安心《あんしん》しました。そしてしばらく小屋《こや》の中に入《はい》って足の疲《つか》れをやすめました。その時《とき》三|人《にん》のおじいさんは、
「あの鬼《おに》はたいそうお酒《さけ》が好《す》きで、名前《なまえ》まで酒呑童子《しゅてんどうじ》といっております。好物《こうぶつ》のお酒《さけ》を飲《の》んで、酔《よ》い倒《たお》れますと、もう体《からだ》が利《き》かなくなって、化《ば》けることも、にげることもできなくなります。わたくしどものこのお酒《さけ》は、「神《かみ》の方便《ほうべん》鬼《おに》の毒酒《どくざけ》」という不思議《ふしぎ》なお酒《さけ》で、人間《にんげん》が飲《の》めば体《からだ》が軽《かる》くなって力《ちから》がましますが、鬼《おに》が飲《の》めば体《からだ》がしびれて、通力《つうりき》がなくなってしまって、切《き》られても、つかれても、どうすることもできません。このお酒《さけ》をあげますから、酒呑童子《しゅてんどうじ》にすすめて酔《よ》いつぶした上、首尾《しゅび》よく鬼《おに》の首《くび》を切《き》って下《くだ》さい。」
 といって、お酒《さけ》のかめをわたしました。
 それから三|人《にん》のおじいさんは先《さき》に立《た》って、千丈《せんじょう》ガ岳《たけ》を上《のぼ》って行きました。十|丈《じょう》くらい長《なが》さのある、まっくらな岩穴《いわあな》の中をくぐって外《そと》へ出ますと、さあさあと音《おと》を立《た》てて、小《ちい》さな谷川《たにがわ》の流《なが》れている所《ところ》へ出ました。その時《とき》おじいさんたちはふり向《む》いて、
「ではこの川についてどんどん上《のぼ》っておいでなさい。すると川のふちに十七八の娘《むすめ》がいますから、その子にたずねて、鬼《おに》の岩屋《いわや》へおいでなさい。」
 といったと思《おも》うと、三|人《にん》ともふいと姿《すがた》が見《み》え
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