迷《まよ》った旅《たび》の修行者《しゅぎょうじゃ》でございますが、三|人《にん》のうち二人《ふたり》まで仲間《なかま》をなくしてしまいました。」
といって、今《いま》し方《がた》出会《であ》ったふしぎな出来《でき》ごとを残《のこ》らず話《はな》しました。すると女は大《たい》そう気《き》の毒《どく》がって、
「じつはわたしも鬼《おに》の娘《むすめ》です。永年《ながねん》あなたと同《おな》じような気《き》の毒《どく》なめにあった人を見《み》て知《し》っています。けれどもそれをどうして上《あ》げることもできませんでした。でもあなたはお気《き》の毒《どく》な人だから、助《たす》けて上《あ》げたいと思《おも》います。もう間《ま》もなく鬼《おに》がここまで追《お》っかけて来《く》るに違《ちが》いありませんから、少《すこ》しでも早《はや》く逃《に》げておいでなさい。これから一|里《り》ばかり行くと、わたしの妹《いもうと》がいます。そこへわたしから手紙《てがみ》をつけて上《あ》げます。」
といって、手紙《てがみ》を書《か》いてくれました。
坊《ぼう》さんは度々《たびたび》お礼《れい》をいって、手紙《てがみ》をもらって、また足《あし》にまかせて駆《か》けて行きました。なるほど一|里《り》ばかり行くと、松《まつ》のはえた山があって、その山の陰《かげ》に家《うち》がありました。そこへ入《はい》って、手紙《てがみ》を見《み》せますと、若《わか》い女が出て来《き》て、
「お気《き》の毒《どく》だから助《たす》けて上《あ》げたいと思《おも》いますが、あいにく今《いま》は悪《わる》い時刻《じこく》です。」
といって、ふしぎそうな顔《かお》をしている坊《ぼう》さんを、いきなり戸棚《とだな》の中にかくしてしまいました。しばらくすると、どこからか血《ち》なまぐさい風《かぜ》が吹《ふ》いてきて、がやがや人の声《こえ》がしました。やがて入《はい》って来《き》たのは、これも恐《おそろ》しい顔《かお》をした鬼《おに》でした。そしてもう入《はい》って来《く》るなり鼻《はな》をくんくんやりながら、
「ふんふん、人くさいぞ。人くさいぞ。」
とわめきました。
「ばかなことをいってはいけません。きっとけだものくさいの間違《まちが》いでしょう。」
と女はいって、牛《うし》や馬《うま》の生々《なまなま》しい肉《
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