は、ひいさまにもわかっていました。この船の人たちも、はるか海の底に人魚のひいさまがいて、その白い手を、船のほうへさしのべていようとは、さすがにおもいもつかなかったでしょう。
 さて、いちばん上のひいさまも、十五になりました。いよいよ、海の上に出られることになりました。
 このおねえさまがかえって来ると、山ほどもおみやげの話がありましたが、でも、なかでいちばんよかったのは、波のしずかな遠浅《とおあさ》の海に横になりながら、すぐそばの海ぞいの大きな町をみていたことであったといいます。そこでは、町のあかりが、なん百とない星の光のようにかがやいていましたし、音楽もきこえるし、車や人の通るとよめきも耳にはいりました。お寺のまるい塔と、とがった塔のならんでいるのが見えたし、そこから、鐘の音もきこえて来ました。でも、そこへ上がっていくことはできませんから、ただなにくれと、そういうものへのあこがれで、胸をいっぱいにしてかえって来たということでした。
 まあ、いちばん下のひいさまは、この話をどんなに夢中できいたことでしょう。それからというもの、あいた窓ぎわに立って、くらい色の水をすかして上を仰ぐたんびに
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