、ひいさまは、こころでは、死ぬことをおもいながら、いっしょにわらっておどりました。王子がうつくしい花よめにくちびるをつけると、王女は王子の黒い髪をいじっていました。そうして、手をとりあって、きらびやかな天幕《てんまく》のなかへはいりました。
船の上は、ひっそり人音もなくなりました、ただ、舵《かじ》とりだけが、あいかわらず、舵をひかえて立っていました。人魚のひいさまは、船のへりにその白い腕をのせて、赤らんでくる東の空をじっとながめていました。そのはじめてのお日さまの光が、じぶんをころすのだ、とひいさまはおもいました。そのときふと、おねえさまたちが、波のなかから出てくるのがみえましたが、たれもひいさまとおなじように、青い顔をしていました。しかも、そのうつくしい髪の毛も、風になびかしてはいませんでした。それはきれいに切りとられていました。
「あたしたち、髪を魔女にやってしまったのよ、あなたをたすけてもらおうとおもってね。なんでもあなたを今夜かぎり死なせたくないのだもの。すると魔女が、ほらこのとおり、短刀をくれましたの。ごらん、ずいぶんよく切れそうでしょう。お日さまののぼらないうち、これで王
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