、あたしは、みらいえいごう、声をひとにやってしまったのです。せめて、それがおわかりになったらね。」と、ひいさまはおもっていました。
 こんどは、女のどれいたちが、それはけっこうな音楽にあわせて、しとやかに、かるい足どりで、おどりました。すると、人魚のひいさまも、うつくしい白い腕をあげて、つま先立ちして、たれにもまねのならないかるい身のこなしで、ゆかの上をすべるようにおどりあるきました。ひとつひとつ、しぐさをかさねるにしたがって、この人魚のひいさまの世にないうつくしさが、いよいよ目に立ちました。その目のはたらきは、どれいたちの女の歌とくらべものにならない、ふかいいみを、見る人びとのこころに語っていました。
 そこにいた人たちは、たれも、酔ったようになっていました。とりわけ、王子は、ひいさまの名を「かわいいひろいむすめさん」とつけてよろこんでいました。ひいさまは、いくらでもおどりつづけました。そのくせ地に足がふれるたんびに、するどい刄ものの上をふむようでした。王子は、いつまでもじぶんの所にいるようにといって、すぐじぶんのへやのまえの、びろうどのしとねにねることをゆるしました。
 王子は、ひ
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