いらっしゃるうち、あたし、海の魔女《まじょ》の所へ行ってみよう。いつもはずいぶんこわいのだけれど、でもきっと、あの女なら相談相手になって、いいちえをかしてくれるでしょう。」
 そこで、人魚のひいさまは、花園をでて、ぶつぶつあわ立つうず巻の流れのなかへむかっていきました。このうず巻のむこうに、魔女のすまいがありました。こんな道をとおるのははじめてのことでした。そこには花も咲いていず、藻草《もぐさ》も生えていません。ただむきだしな灰いろの砂地が、うずのながれの所までつづいていて、そのながれはうなりを立てて、水車の車輪のようにくるりくるりまわっていました。そうして、このうず巻のなかにはいってくるものは、なんでもつかまえて、こなごなにくだいて、ふかいふちに引きこみました。このはげしいうずのながれの、しかもまん中をとおって行くほかに海の魔女の領分《りょうぶん》にはいる道はありませんし、それも、ながいあいだ、ぶつぶつ煮えて、あわだっているどろ沼をわたって行くよりほかに道はないのです。この沼を、[#「、」は底本では「。」]じぶんのすくも[#「すくも」に傍点]田という名で魔女はよんでいました。これを行
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