って、うしおがどどっと、所かまわず船にながれ込みました。ここではじめて、人魚のひいさまも、船の人たちの身の上のあぶないことが分かりました。そればかりかじぶんも、水の上におしながされた船のはりや板きれにぶつからない用心しなければなりませんでした。ふと一時、すみをながしたようなやみ夜になって、まるでものがみえなくなりました。するうち、いなびかりがしはじめるとまたあかるくなって、船の上のようすが手にとるようにわかりました。みんなどうにかして助かろうとしてあがいていました。わかい王子のすがたを、ひいさまはさがしもとめて、それがちらりと目にはいったとたん、船がふたつにわれて、王子も海のそこふかくしずんでいきました。はじめのうち、ひいさまはこれで王子がじぶんの所へ来てくれるとおもって、すっかりたのしくなりました。でも、すぐと、水のなかでは、人間が生きていけないことをおもいだしました。そうすると、この王子も死んで、おとうさまの御殿にいきつくほかはないとおもいました。まあ、この人を死なせるなんて、とんでもないことです。そこで、波のうえにただようはりや板きれをかきわけかきわけ、万一、ぶつかってつぶされる
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