ょうの下にたちまよって、どこからともなくでていきました。大きなおなべには、スープがにえたって、大うさぎ小うさぎが、あぶりぐしにさして、やかれていました。
「おまえは、こん夜は、あたいや、あたいのちいさなどうぶつといっしょにねるのよ。」と、おいはぎのこむすめがいいました。
ふたりはたべものと、のみものをもらうと、わらや、しきものがしいてある、へやのすみのほうへ行きました。その上には、百ぱよりも、もっとたくさんのはと[#「はと」に傍点]が、ねむったように、木摺《きずり》や、とまり木にとまっていましたが、ふたりの女の子がきたときには、ちょっとこちらをむきました。
「みんな、このはと、あたいのものなのよ。」と、おいはぎのこむすめはいって、てばやく、てぢかにいた一わをつかまえて、足をゆすぶったので、はとは、羽根をばたばたやりました。
「せっぷんしておやりよ。」と、いって、おいはぎのこむすめは、それを、ゲルダの顔になげつけました。
「あすこにとまっているのが、森のあばれものさ。」と、そのむすめは、かべにあけたあなに、うちこまれたとまり木を、ゆびさしながら、また話しつづけました。「あれは二わとも森のあばれものさ。しっかり、とじこめておかないと、すぐにげていってしまうの。ここにいるのが、昔からおともだちのベーよ。」
こういって、女の子は、ぴかぴかみがいた、銅《どう》のくびわをはめたままつながれている、一ぴきのとなかいを、[#「とかないを、」に傍点]つのをもってひきだしました。
「これも、しっかりつないでおかないと、にげていってしまうの。だから、あたいはね、まい晩よくきれるナイフで、くびのところをくすぐってやるんだよ。すると、それはびっくりするったらありゃしない。」
そういいながら、女の子はかべのわれめのところから、ながいナイフをとりだして、それをとなかいのくびにあてて、そろそろなでました。かわいそうに、そのけものは、足をどんどんやって、苦しがりました。むすめは、おもしろそうにわらって、それなりゲルダをつれて、ねどこに行きました。
「あなたはねているあいだ、ナイフをはなさないの。」と、ゲルダは、きみわるそうに、それをみました。
「わたい、しょっちゅうナイフをもっているよ。」と、おいはぎのこむすめはこたえました。
「なにがはじまるかわからないからね。それよか、もういちどカイちゃんって子の話をしてくれない、それから、どうしてこのひろい世界に、あてもなくでてきたのか、そのわけを話してくれないか。」
そこで、ゲルダははじめから、それをくりかえしました。森のはとが、頭の上のかごの中でくうくういっていました。ほかのはとはねむっていました。おいはぎのこむすめは、かた手をゲルダのくびにかけて、かた手にはナイフをもったまま、大いびきをかいてねてしまいました。けれども、ゲルダは、目をつぶることもできませんでした。ゲルダは、いったい、じぶんは生かしておかれるのか、ころされるのか、まるでわかりませんでした。
たき火のぐるりをかこんで、おいはぎたちは、お酒をのんだり、歌をうたったりしていました。そのなかで、ばあさんがとんぼをきりました。ちいさな女の子にとっては、そのありさまを見るだけで、こわいことでした。
そのとき、森のはとが、こういいました。
「くう、くう、わたしたち、カイちゃんを見ましたよ。一わの白いめんどりが、カイちゃんのそりをはこんでいました。カイちゃんは雪の女王のそりにのって、わたしたちが、巣にねていると、森のすぐ上を通っていったのですよ。雪の女王は、わたしたち子ばとに、つめたいいきをふきかけて、ころしてしまいました。たすかったのは、わたしたち二わだけ、くう、くう。」
「まあ、なにをそこでいってるの。」と、ゲルダが、つい大きなこえをしました。「その雪の女王さまは、どこへいったのでしょうね。そのさきのこと、なにかしっていて。おしえてよ。」
「たぶん、*ラップランドのほうへいったのでしょうよ。そこには、年中、氷や雪がありますからね。まあ、つながれている、となかいに、きいてごらんなさい。」
[#ここから5字下げ]
*ヨーロッパ洲の極北、スカンジナビア半島の北東部、四〇万平方キロ一帯の寒い土地。遊牧民のラップ人がすむ。
[#ここで字下げ終わり]
すると、となかいがひきとって、
「そこには年中、氷や雪があって、それはすばらしいみごとなものですよ。」といいました。
「そこでは大きな、きらきら光る谷まを、自由にはしりまわることができますし、雪の女王は、そこに夏のテントをもっています。でも女王のりっぱな本城《ほんじょう》は、もっと北極のほうの、*スピッツベルゲンという島の上にあるのです。」
[#ここから5字下げ]
*ノルウェーのはるか北、北極海にちかい小島群(一
前へ
次へ
全21ページ中15ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
楠山 正雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング