赤いくつ
DE RODE SKO
ハンス・クリスティアン・アンデルセン Hans Christian Andersen
楠山正雄訳
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)甲《こう》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)大|舞踏会《ぶとうかい》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#挿絵(fig42378_01.png)入る]
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[#挿絵(fig42378_01.png)入る]
あるところに、ちいさい女の子がいました。その子はとてもきれいなかわいらしい子でしたけれども、貧乏だったので、夏のうちははだしであるかなければならず、冬はあつぼったい木のくつをはきました。ですから、その女の子のかわいらしい足の甲《こう》は、すっかり赤くなって、いかにもいじらしく見えました。
村のなかほどに、年よりのくつ屋のおかみさんが住んでいました。そのおかみさんはせっせと赤いらしゃの古切れをぬって、ちいさなくつを、一足こしらえてくれていました。このくつはずいぶんかっこうのわるいものでしたが、心のこもった品で、その女の子にやることになっていました。その女の子の名はカレンといいました。
カレンは、おっかさんのお葬式《そうしき》の日に、そのくつをもらって、はじめてそれをはいてみました。赤いくつは、たしかにおとむらいにはふさわしくないものでしたが、ほかに、くつといってなかったので、素足《すあし》の上にそれをはいて、粗末な棺《かん》おけのうしろからついていきました。
そのとき、年とったかっぷくのいいお年よりの奥《おく》さまをのせた、古風な大馬車が、そこを通りかかりました。この奥さまは、むすめの様子をみると、かわいそうになって、
「よくめんどうをみてやりとうございます。どうか、この子を下さいませんか。」と、坊《ぼう》さんにこういってみました。
こんなことになったのも、赤いくつのおかげだと、カレンはおもいました。ところが、その奥さまは、これはひどいくつだといって、焼きすてさせてしまいました。そのかわりカレンは、小ざっぱりと、見ぐるしくない着物を着せられて、本を読んだり、物を縫《ぬ》ったりすることを教えられました。人びとは、カレンのことを、かわいらしい女の子だといいました。カレンの鏡は、
「あなたはかわいらしいどころではありません。ほんとうにお美しくっていらっしゃいます。」と、いいました。
あるとき女王さまが、王女さまをつれてこの国をご旅行になりました。人びとは、お城のほうへむれを作ってあつまりました。そのなかに、カレンもまじっていました。王女さまは美しい白い着物を着て、窓のところにあらわれて、みんなにご自分の姿が見えるようになさいました。王女さまはまだわかいので、裳裾《もすそ》もひかず、金の冠《かんむり》もかぶっていませんでしたが、目のさめるような赤いモロッコ革のくつをはいていました。そのくつはたしかにくつ屋のお上さんが、カレンにこしらえてくれたものより、はるかにきれいなきれいなものでした。世界じゅうさがしたって、この赤いくつにくらべられるものがありましょうか。
さて、カレンは堅信礼《けんしんれい》をうける年頃になりました。新しい着物ができたので、ついでに新しいくつまでこしらえてもらって、はくことになりました。町のお金持のくつ屋が、じぶんの家のしごとべやで、カレンのかわいらしい足の寸法をとりました。そこには、美しいくつだの、ぴかぴか光る長ぐつだのがはいった、大きなガラス張《ば》りの箱《はこ》が並んでいました。そのへやはたいへんきれいでしたが、あのお年よりの奥さまは、よく目が見えなかったので、それをいっこういいともおもいませんでした。いろいろとくつが並んでいるなかに、あの王女さまがはいていたのとそっくりの赤いくつがありました。なんという美しいくつでしたろう。くつ屋さんは、これはある伯爵《はくしゃく》のお子さんのためにこしらえたのですが、足に合わなかったのですといいました。
「これはきっと、エナメル革《がわ》だね。まあ、よく光ってること。」と、お年よりはいいました。
「ええ。ほんとうに、よく光っておりますこと。」と、カレンはこたえました。そのくつはカレンの足に合ったので、買うことになりました。けれどもお年よりは、そのくつが赤かったとは知りませんでした。というのは、もし赤いということがわかったなら、カレンがそのくつをはいて、堅信礼《けんしんれい》を受けに行くことを許さなかったはずでした。でも、カレンは、その赤いくつをはいて、堅信礼をうけにいきました。
たれもかれもが、カレンの足もとに目をつけました。そして、カレンがお寺のしきいをまたいで、唱歌所の入口へ進んでいったとき、墓石の上の古い
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