ねがなるようじゃ。」
「いいえ、あれはかえるでございますわ。」と、お台所むすめはいいました。「でも、ここまでくれは、もうじき鳥もきこえるでしょう。」
 こういっているとき、ちょうどさよなきどりが、なきはじめました。
「ああ、あれです。」と、むすめはいいました。「ほら、あすこに、とまっているでしょう。」
 こういって、このむすめは、むこうの枝《えだ》にとまっている、灰《はい》色したことりを、ゆびさしました。
「はてね。」と、侍従長はいいました。「あんなようすをしているとは、おもいもよらなかったよ。なんてつまらない鳥なんだ。われわれ高貴《こうき》のものが、おおぜいそばにきたのにおじて、羽根《はね》のいろもなくしてしまったにちがいない。」
「さよなきどりちゃん。」と、お台所むすめは、大きなこえで、いいました。「陛下《へいか》さまが、ぜひごぜんで、うたわせて、ききたいとおっしゃるのよ。」
「それはけっこうこの上なしです。」と、さよなきどりはいいました。そうして、さっそくうたいだしましたが、そのこえのよさといったらありません。
「まるで玻璃鐘《はりしょう》の音《ね》じゃな。」と、侍従長はいいまし
前へ 次へ
全29ページ中9ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
楠山 正雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング