とどきました。皇帝は金のいすにこしをかけて、なんべんもなんべんもおよみになって、いちいちわが意をえたりというように、うなずかれました。ごじぶんの都や御殿や御苑のことを、うつくしい筆でしるしているのをよむのは、なるほどたのしいことでした。
「さはいえど、なお、さよなきどりこそ、こよなきものなれ。」と、そのあとにしかし、ちゃんとかいてありました。
「はてな。」と、皇帝は首をおかしげになりました。「さよなきどりというか。そんな鳥のいることはとんとしらなかった。そんな鳥がこの帝国のうちに、しかも、この庭うちにすんでいるというのか。ついきいたこともなかったわい。それほどのものを、本でよんではじめてしるとは、いったいどうしたことだ。」
そこで皇帝は、さっそく侍従長《じじゅうちょう》をおめしになりました。この役人は、たいそう、かくしきばった男で、みぶんの下のものが、おそるおそるはなしかけたり、または、ものでもたずねても、ただ「ペ」とこたえるだけでした。ただしこの「ペ」というのに、べつだんのいみはないのです。
「この本でみると、ここにさよなきどりというふしぎな鳥がいることになっているが。」と、皇帝は
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