したが、皇帝は、いきているさよなきどりにも、なにかうたわせようじゃないかと、おっしゃいました。――ところが、それはどこへいったのでしょう。たれひとりとして、ほんもののさよなきどりが、あいていたまどからとびだして、もとのみどりの森にかえっていったことに、気づいたものは、ありませんでした。
「いったい、これはどうしたというわけなのか。」と、皇帝はおっしゃいました。ところが、御殿の人たちは、ほんもののさよなきどりのことを、わるくいって、あのさよなきどりのやつ、ずいぶん恩しらずだといいました。
「なあに、こちらには、世界一上等の鳥がいるのだ。」と、みんないいました。
 そこで、さいく物のことりが、またうたわせられることになりました。これで三十四回おなじうたをきくわけになったのですが、それでもなかなか、ふしがむずかしいので、たれにもよくおぼえることができませんでした。で、楽師長は、よけいこのとりをほめちぎって、これはまったく、ほんもののさよなきどりにくらべて、つくりといい、たくさんのみごとなダイヤモンド飾りといい、ことさら、なかのしかけといったら、どうして、ほんものよりはずっとりっぱなものだとい
前へ 次へ
全29ページ中16ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
楠山 正雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング