として、ふしらしいもののうたえるのどでは、ありませんでした。――
 ところで、ある日、皇帝のおてもとに、大きな小包《こづつみ》がとどきました。その包のうわがきに、「さよなきどり。」と、ありました。
「さあ、わが国の有名なことりのことを書いたしょもつが、またきたわい。」
 皇帝はこうおっしゃいましたが、こんどは、本ではなくて、はこにはいった、ちいさなさいく物《もの》でした。それはほんものにみまがうこしらえものの、さよなきどりでしたが、ダイヤモンドだの、ルビイだの、サファイヤだのの宝石《ほうせき》が、ちりばめてありました。ねじをまくと、さっそく、このさいく物の鳥は、ほんものの鳥のうたうとおりを、ひとふしうたいました。そうして、上したに尾をうごかすと、金や、銀が、きらきらひかりました。首のまわりに、ちいさなリボンがいわえつけてあって、それに、
「日本皇帝のさよなきどり、中華皇帝のそれにはおよびもつかぬ、おはずかしきものながら。」と、書いてありました。
「これはたいしたものだ。」と、みんなはいいました。そうして、このさいく物《もの》のことりをはこんできたものは、さっそく、帝室《ていしつ》さよな
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