て、あのまどのわきの枝に、とまります。そして、陛下のおこころがたのしくもなり、また、おこころぶかくなりますように、歌をうたって、おきかせ申しましょう。そうです、わたくしは、幸福なひとたちのことをも、くろうしている人たちのことをも、うたいましょう。あなたのお身のまわりにかくれておりますわるいこと、よいこと、なにくれとなくうたいましょう。まずしい漁師のやどへも、お百姓《ひゃくしょう》のやねへも、陛下から、またこのお宮から、とおくはなれてすまっておりますひとたちの所へも、この小さな歌うたいどりは、とんで行くのでございます。わたくしは、陛下のおかんむりよりは、もっと陛下のお心がすきでございます。もっとも王冠は王冠で、またべつに、なにか神聖《しんせい》とでも申したいにおいが、いたさないでもございません。――ではまた、いずれまいって歌をうたってさしあげましょう。――ただここにひとつおやくそくしていただきたいことがございますが――。」
――「どんなことでも。」と、皇帝はおっしゃりながら、たちあがって、ごじぶんで皇帝のお服をめして、金のかざりでおもくなっている剱《けん》を、むねにおつけになりました。
「それでは、このひとつのことを、おやくそく、くださいまし。それは、陛下が、なにごとでも、はばかりなくおはなし申しあげることりをおもちになっていらっしゃることを、だれにもおもらしにならないということでございます。そういたしますと、なおさら、なにごともつごうよくまいることでしょう。」
こういって、さよなきどりは、とんでいきました。
おつきの人たちは、そのとき、おかくれになった陛下のおすがたを、おがむつもりで、はいってきましたが――おや、っと、そのまま棒《ぼう》だちに立ちすくみました。そのとき皇帝はおっしゃいました。
「みなのもの、おはよう。」
[#挿絵(fig42381_03.png)入る]
底本:「新訳アンデルセン童話集 第二巻」同和春秋社
1955(昭和30)年7月15日初版発行
※「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、底本の表記をあらためました。
※底本中、*で示された語句の訳註は、当該語句のあるページの下部に挿入されていますが、このファイルでは当該語句のある段落のあとに、5字下げで挿入しました。
入力:大久保ゆう
校正:鈴木
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