はもう自分《じぶん》ながら自分《じぶん》の深《ふか》い罪《つみ》と迷《まよ》いのために、このとおり石になってもなお苦《くる》しんでいるのでございます。」
 こういって、女はほっとため息《いき》をつきました。
 玄翁《げんのう》はだまって、じっと目をつぶったまま、女の話《はなし》を聴《き》いていました。やがて女の長《なが》い話《はなし》がおしまいになりますと、静《しず》かに目をあいて、やさしく女の姿《すがた》を見《み》ながら、
「うん、うん、分《わ》かった。わたしの力《ちから》の及《およ》ぶだけはやってみよう。安心《あんしん》して帰《かえ》るがいい。」
 といいました。
 女はにっこり笑《わら》って、すっとかき消《け》すように見《み》えなくなりました。
 そうこうするうちに、いつか夜《よ》がしらしら明《あ》けはなれてきました。玄翁《げんのう》ははじめてそこらを見回《みまわ》しますと、石はゆうべのままに白《しろ》く立《た》っていました。見《み》ると石のまわりには、二三|町《ちょう》の間《あいだ》ろくろく草《くさ》も生《は》えてはいませんでした。そして小鳥《ことり》や虫《むし》が何《なん》千
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