往きかいするのと大してちがったことではありません。でも、この下界では心臓を電気にうたれると、からだがはたらかなくなる危険があります。ただこの夜番のように、幸福のうわおいぐつをはいているときだけは、べつでした。
 なん秒かで、夜番は五万二千マイルの道をいって、月の世界までとびました。それは、地の上の世界とはちがった、ずっと軽い材料でできていました。そしていわば降りだしたばかりの雪のようにふわふわしています。夜番は例の*メードレル博士の月世界大地図で、あなた方もおなじみの、かずしれず環《わ》なりに取りまわした山のひとつにくだりました。山が輪になってめぐっている内がわに、切っ立てになったはち[#「はち」に傍点]形のくぼみが、なんマイルもふかく掘れていました。その堀の底に町があって、そのようすはちょっというと、卵の白味を、水を入れたコップに落したというおもむきですが、いかにも、さわってみると、まるで卵の白味のように、ぶよぶよやわらかで、人間の世界と同じような塔や、円《まる》屋根のお堂や、帆のかたちした露台《ろだい》が、薄い空気のなかに、すきとおって浮いていました。さて人間の住む地球は、大きな赤
前へ 次へ
全70ページ中26ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
楠山 正雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング