》に毛《け》むくじゃらな手を出《だ》しました。山うばは「おや。」といってふしぎそうな顔《かお》つきをしましたけれど、金太郎《きんたろう》はおもしろがって、
「ああ、取《と》ろう。」
 と、すぐむくむく肥《ふと》ったかわいらしい手《て》を出《だ》しました。そこで二人《ふたり》はしばらく真《ま》っ赤《か》な顔《かお》をして押《お》し合《あ》いました。そのうちきこりはふいと、
「もう止《よ》そう。勝負《しょうぶ》がつかない。」
 と言《い》って、手《て》を引《ひ》っ込《こ》めてしまいました。それから改《あらた》めて座《すわ》りなおして、山うばに向《む》かって、ていねいにおじぎをして、
「どうも、だしぬけに失礼《しつれい》しました。じつはさっきぼっちゃんが、谷川《たにがわ》のそばで大きな杉《すぎ》の木を押《お》し倒《たお》したところを見《み》て、おどろいてここまでついて来《き》たのです。今《いま》また腕《うで》ずもうを取《と》って、いよいよ大力《だいりき》なのにおどろきました。どうしてこの子は今《いま》にえらい勇士《ゆうし》になりますよ。」
 こう言《い》って、こんどは金太郎《きんたろう》に向《む》かって、
「どうだね、坊《ぼう》やは都《みやこ》へ出てお侍《さむらい》にならないかい。」
 と言《い》いました。金太郎《きんたろう》は目をくりくりさせて、
「ああ、お侍《さむらい》になれるといいなあ。」
 と言《い》いました。
 このきこりと見《み》せたのはじつは碓井貞光《うすいのさだみつ》といって、その時分《じぶん》日本一《にほんいち》のえらい大将《たいしょう》で名高《なだか》い源頼光《みなもとのらいこう》の家来《けらい》でした。そして御主人《ごしゅじん》から強《つよ》い侍《さむらい》をさがして来《こ》いという仰《おお》せを受《う》けて、こんな風《ふう》をして日本《にほん》の国中《くにじゅう》をあちこちと歩《ある》きまわっているのでした。
 山うばもそう聞《き》くと、たいそう喜《よろこ》んで、
「じつはこの子の亡《な》くなりました父《ちち》も、坂田《さかた》というりっぱな氏《うじ》を持《も》った侍《さむらい》でございました。わけがございましてこのとおり山の中に埋《う》もれておりますものの、よいつてさえあれば、いつか都《みやこ》へ出《だ》して侍《さむらい》にして、家《いえ》の名《な》をつがせてやりたいと思《おも》っておりました。そういうことでしたら、このとおりの腕白者《わんぱくもの》でございますが、どうぞよろしくお願《ねが》い申《もう》します。」
 とさもうれしそうに言《い》いました。
 金太郎《きんたろう》はそばで二人《ふたり》の話《はなし》を聞《き》いて、
「うれしいな、うれしいな。おれはお侍《さむらい》になるのだ。」
 と言《い》って、小踊《こおど》りをしていました。
 金太郎《きんたろう》がいよいよ碓井貞光《うすいのさだみつ》に連《つ》れられて都《みやこ》へ上《のぼ》るということを聞《き》いて、熊《くま》も鹿《しか》も猿《さる》もうさぎもみんな連《つ》れ立《だ》ってお別《わか》れを言《い》いに来《き》ました。金太郎《きんたろう》はみんなの頭《あたま》を代《か》わりばんこになでてやって、
「みんな仲《なか》よく遊《あそ》んでおくれ。」
 と言《い》いました。みんなは、
「金太郎《きんたろう》さんがいなくなってさびしいなあ。早《はや》くえらい大将《たいしょう》になって、また顔《かお》を見《み》せて下《くだ》さい。」
 と言《い》って、名残《なごり》惜《お》しそうに帰《かえ》っていきました。金太郎《きんたろう》はおかあさんの前《まえ》に手《て》をついて、
「おかあさん、では行ってまいります。」
 と言《い》いました。そして、貞光《さだみつ》のあとについて、とくいらしく出ていきました。
 それから幾日《いくにち》も幾日《いくにち》もかかって、貞光《さだみつ》は金太郎《きんたろう》を連《つ》れて都《みやこ》へ帰《かえ》りました。そして頼光《らいこう》のおやしきへ行って、
「足柄山《あしがらやま》の奥《おく》で、こんな子供《こども》を見《み》つけてまいりました。」
 と、金太郎《きんたろう》を頼光《らいこう》のお目にかけました。
「ほう、これはめずらしい、強《つよ》そうな子供《こども》だ。」
 と頼光《らいこう》は言《い》いながら、金太郎《きんたろう》の頭《あたま》をさすりました。
「だが金太郎《きんたろう》という名《な》は侍《さむらい》にはおかしい。父親《ちちおや》が坂田《さかた》というのなら、今《いま》から坂田金時《さかたのきんとき》と名乗《なの》るがいい。」
 そこで金太郎《きんたろう》は坂田金時《さかたのきんとき》と名乗《なの》って、頼
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