ま》がかかっていきましたが、片《かた》っぱしからころころ、ころがされてしまいました。
「何《なん》だ。弱虫《よわむし》だなあ。みんないっぺんにかかって来《こ》い。」
 と金太郎《きんたろう》が言《い》いますと、くやしがってうさぎが足《あし》を持《も》つやら猿《さる》が首《くび》に手《て》をかけるやら、大《おお》さわぎになりました。そして鹿《しか》が腰《こし》を押《お》して熊《くま》が胸《むね》に組《く》みついて、みんな総《そう》がかりでうんうんいって、金太郎《きんたろう》を倒《たお》そうとしましたが、どうしても倒《たお》すことができませんでした。金太郎《きんたろう》はおしまいにじれったくなって、からだを一振《ひとふ》りうんと振《ふ》りますと、うさぎも猿《さる》も鹿《しか》も熊《くま》もみんないっぺんにごろごろ、ごろごろ土俵《どひょう》の外《そと》にころげ出《だ》してしまいました。
「ああ、いたい。ああ、いたい。」
 とみんな口々《くちぐち》に言《い》って、腰《こし》をさすったり、肩《かた》をもんだりしていました。金太郎《きんたろう》は、
「さあ、おれにまけてかわいそうだから、みんなに分《わ》けてやろう。」
 と言《い》って、うさぎと猿《さる》と鹿《しか》と熊《くま》をまわりにぐるりに並《なら》ばせて、自分《じぶん》がまん中に座《すわ》って、おむすびを分《わ》けてみんなで食《た》べました。しばらくすると金太郎《きんたろう》は、
「ああ、うまかった。さあ、もう帰《かえ》ろう。」
 と言《い》って、またみんなを連《つ》れて帰《かえ》っていきました。

     二

 帰《かえ》って行《い》く道々《みちみち》も、森《もり》の中でかけっくらをしたり、岩《いわ》の上で鬼《おに》ごっこをしたりして遊《あそ》び遊《あそ》び行《い》くうちに、大きな谷川《たにがわ》のふちへ出ました。水はごうごうと音《おと》を立《た》てて、えらい勢《いきお》いで流《なが》れて行《い》きますが、あいにく橋《はし》がかかっていませんでした。みんなは、
「どうしましょう。あとへ引《ひ》き返《かえ》しましょうか。」
 と言《い》いました。金太郎《きんたろう》はひとりへいきな顔《かお》をして、
「なあにいいよ。」
 と言《い》いながら、そこらを見《み》まわしますと、ちょうど川《かわ》の岸《きし》に二《ふた》かかえもあるような大きな杉《すぎ》の木が立《た》っていました。金太郎《きんたろう》はまさかりをほうり出《だ》して、いきなり杉《すぎ》の木に両手《りょうて》をかけました。そして二、三|度《ど》ぐんぐん押《お》したと思《おも》うと、めりめりとひどい音《おと》がして、木は川《かわ》の上にどっさりと倒《たお》れかかって、りっぱな橋《はし》ができました。金太郎《きんたろう》はまたまさかりを肩《かた》にかついで、先《さき》に立《た》って渡《わた》っていきました。みんなは顔《かお》を見合《みあ》わせて、てんでんに、
「えらい力《ちから》だなあ。」
 とささやき合《あ》いながら、ついて行きました。
 その時《とき》向《む》こうの岩《いわ》の上にきこりが一人《ひとり》かくれていて、この様子《ようす》を見《み》ていました。金太郎《きんたろう》がむぞうさに、大きな木をおし倒《たお》したのを見《み》て、目をまるくしながら、
「どうもふしぎな子供《こども》だな。どこの子供《こども》だろう。」
 と独《ひと》り言《ごと》を言《い》いました。そして立《た》ち上《あ》がって、そっと金太郎《きんたろう》のあとについて行きました。うさぎや熊《くま》に別《わか》れると、金太郎《きんたろう》は一人《ひとり》で、また身軽《みがる》にひょいひょいと谷《たに》を渡《わた》ったり、崖《がけ》を伝《つた》わったりして、深《ふか》い深《ふか》い山奥《やまおく》の一|軒家《けんや》に入《はい》っていきました。そこいらには白《しろ》い雲《くも》がわき出《だ》していました。
 きこりはそのあとからやっと木の根《ね》をよじたり、岩角《いわかど》につかまったりして、ついて行きました。やっとうちの前《まえ》まで来《き》て、きこりが中をのぞきますと、金太郎《きんたろう》はいろりの前《まえ》に座《すわ》って、おかあさんの山うばに、熊《くま》や鹿《しか》とすもうを取《と》った話《はなし》をせっせとしていました。おかあさんもおもしろそうに、にこにこ笑《わら》って聞《き》いていました。その時《とき》きこりは出《だ》しぬけに窓《まど》から首《くび》をぬっと出《だ》して、
「これこれ、坊《ぼう》や。こんどはおじさんとすもうを取《と》ろう。」
 と言《い》いながら、のこのこ入《はい》って行《い》きました。そしていきなり金太郎《きんたろう》の前《まえ
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