》に毛《け》むくじゃらな手を出《だ》しました。山うばは「おや。」といってふしぎそうな顔《かお》つきをしましたけれど、金太郎《きんたろう》はおもしろがって、
「ああ、取《と》ろう。」
 と、すぐむくむく肥《ふと》ったかわいらしい手《て》を出《だ》しました。そこで二人《ふたり》はしばらく真《ま》っ赤《か》な顔《かお》をして押《お》し合《あ》いました。そのうちきこりはふいと、
「もう止《よ》そう。勝負《しょうぶ》がつかない。」
 と言《い》って、手《て》を引《ひ》っ込《こ》めてしまいました。それから改《あらた》めて座《すわ》りなおして、山うばに向《む》かって、ていねいにおじぎをして、
「どうも、だしぬけに失礼《しつれい》しました。じつはさっきぼっちゃんが、谷川《たにがわ》のそばで大きな杉《すぎ》の木を押《お》し倒《たお》したところを見《み》て、おどろいてここまでついて来《き》たのです。今《いま》また腕《うで》ずもうを取《と》って、いよいよ大力《だいりき》なのにおどろきました。どうしてこの子は今《いま》にえらい勇士《ゆうし》になりますよ。」
 こう言《い》って、こんどは金太郎《きんたろう》に向《む》かって、
「どうだね、坊《ぼう》やは都《みやこ》へ出てお侍《さむらい》にならないかい。」
 と言《い》いました。金太郎《きんたろう》は目をくりくりさせて、
「ああ、お侍《さむらい》になれるといいなあ。」
 と言《い》いました。
 このきこりと見《み》せたのはじつは碓井貞光《うすいのさだみつ》といって、その時分《じぶん》日本一《にほんいち》のえらい大将《たいしょう》で名高《なだか》い源頼光《みなもとのらいこう》の家来《けらい》でした。そして御主人《ごしゅじん》から強《つよ》い侍《さむらい》をさがして来《こ》いという仰《おお》せを受《う》けて、こんな風《ふう》をして日本《にほん》の国中《くにじゅう》をあちこちと歩《ある》きまわっているのでした。
 山うばもそう聞《き》くと、たいそう喜《よろこ》んで、
「じつはこの子の亡《な》くなりました父《ちち》も、坂田《さかた》というりっぱな氏《うじ》を持《も》った侍《さむらい》でございました。わけがございましてこのとおり山の中に埋《う》もれておりますものの、よいつてさえあれば、いつか都《みやこ》へ出《だ》して侍《さむらい》にして、家《いえ》の名《
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